三月が近づくと、施設のホールや自宅の玄関に何か春らしいものを飾りたくなります。でも本物の雛人形は箱から出すだけで一苦労、しまう場所もない。かといって市販の飾りを買ってきて並べるだけでは、なんとなく物足りない気がする——そんな声をよく耳にします。
結論から言えば、雛人形は折り紙1枚と紙コップ、100円ショップで買える110円の材料だけで、十分見栄えのするものが作れます。ハサミが苦手な方は「ちぎる」だけ、指先が動きにくい方は「貼る」だけ。工程を分ければ、手指の状態が違う人が同じ卓を囲んで1つの飾りを完成させられます。
この記事では、デイサービスや自宅で実際に取り入れられている手作り雛人形を7つ、材料費と所要時間つきで紹介します。あわせて、作った後に「なんだか安っぽく見える」を防ぐ飾り方のコツ、男雛と女雛の左右を間違えないための考え方、飾る時期と片付ける時期の目安まで、一度読めば三月の準備が終わる形でまとめました。
・110円の材料でできる手作り雛人形7案(材料費・所要時間つき)
・「切る・貼る・ちぎる」の工程分担で全員が参加できる進め方
・男雛と女雛の左右、関東式と関西式の違いと間違えない覚え方
・飾り始めは立春から、片付けは3月4日〜1週間以内という時期の目安
雛人形の手作りが高齢者に喜ばれる3つの理由

「わざわざ作らなくても、買ってきた飾りでいいのでは」と思う方もいるかもしれません。それでも手作りが選ばれ続けているのには、飾りができあがること以上の理由があります。
指先を動かす作業が、そのまま機能訓練になる
折り紙を折る、紙をちぎる、のりを塗る。この一連の動きは、親指と人差し指でつまむ力、紙の端をそろえる目と手の協調、そして「次はここを折る」と手順を保持する働きを同時に使います。介護現場では、指先を使う作業や工作を通じたコミュニケーションが手指の機能訓練や脳の活性化に役立つとされ、ものづくりで達成感を得ることが自己肯定感の向上につながると説明されています。
具体的には、15cm角の折り紙を三角に折る動作だけでも、両手で紙の角を合わせて押さえ、折り目を指の腹でしごくという2種類の力の使い方が必要です。リハビリの時間に「はい、指を動かしましょう」と言われるとつい身構えてしまう方でも、おひな様を作るという目的があると自然に手が動きます。ただし、痛みがある関節を無理に使うのは逆効果です。折る回数が少ない作り方から始め、途中で手を止めても作品が形になる工程設計にしておくのが安全です。
昔の雛祭りの記憶が、そのまま会話のきっかけになる
手作りの雛人形が持つ二番目の価値は、作業中の会話です。雛人形は、多くの方が子どもの頃や娘さんが小さかった頃に自宅で飾った経験を持つ品です。「うちは七段だった」「箱から出すのが母の仕事だった」「ちらし寿司の日は朝から台所がにぎやかだった」——こうした記憶は、写真や道具を手がかりに昔を語ってもらう回想法の題材そのものになります。
雛祭りは古代中国の上巳(3月最初の巳の日)に川で身を清める風習が日本に伝わり、草や藁で作った人形(ひとがた)に穢れを移して流す習慣と融合して生まれた行事です。平安時代の紙人形のままごと「ひいな遊び」と結びつき、室町時代に現在の原形である立雛が登場しました。この由来を作業中に一言添えるだけで、「だから紙で作るのが本来の姿なのね」と手元の折り紙の意味が変わります。注意したいのは、記憶をたどる会話が必ず楽しい方向に向かうとは限らない点です。ご家族との思い出に触れたくない方もいるので、話題は本人が乗ってきたときだけ広げます。
「参加した」という実感が生きがいにつながる
三番目の理由は、活動そのものが生きがいの感覚と結びついていることです。内閣府の令和7年版高齢社会白書では、何らかの活動に参加した人のうち生きがいを「十分感じている」または「多少感じている」と答えた割合が84.6%で、参加しなかった人との差は23.0ポイントと報告されています。学習活動に参加する高齢者は全体の28.4%、その内訳は「家政・家事(料理・裁縫・家庭経営など)」が12.0%、「芸術・文化」が10.6%です。
手作りの雛人形は、この「芸術・文化」と「家政・家事」の間にある活動です。完成品が玄関やホールに1か月飾られ、家族や職員から「これ作ったんですか」と声をかけられる。この往復があるから、参加した実感が続きます。逆に、作った作品を作業後すぐ片付けてしまうと効果は半減します。飾る場所を先に決めてから作り始めるのが、実は一番大事な準備です。
何らかの活動に参加した65歳以上のうち、生きがいを「十分感じている」「多少感じている」と回答した人は84.6%。参加しなかった人との差は23.0ポイント。学習活動への参加は全体の28.4%で、うち「芸術・文化」が10.6%(出典:内閣府「令和7年版高齢社会白書」)
作る前の10分で決めておきたい4つの下準備
手作りの成否は、材料を買う前の段取りでほぼ決まります。ここを飛ばすと、当日「はさみが2本しかない」「のりが乾かない」で作業が止まります。
材料は110円で足りる|買い物リストの作り方
結論として、7案すべてに共通して使える基本材料は5点だけです。折り紙、色画用紙、のり、はさみ、両面テープ。2026年時点で100円ショップの折り紙・画用紙は基本的に税込110円で、ダイソーの「ぜんぶちがう 50色おりがみ」は15cm×15cmが50枚入りで税込110円、「特厚口画用紙 四ツ切4枚」「八ツ切10枚」も各税込110円です。セリアの「色画用紙5枚」「色画用紙 四六判半裁1枚」も各税込110円で、くすみカラーまでそろいます。
ここに、ふんわりした衣裳を作るならダイソーの「フラワーペーパー」(税込110円・5色入り100枚、ビニタイ付属)、土台をしっかりさせたいならダイソーのフェルト(各種税込110円、赤・白・緑などのカラー展開)を足します。10人分を作っても材料費は数百円です。注意点は、金・銀の折り紙は表面がつるつるして液体のりが乗りにくいこと。金銀を使うなら両面テープを併用します。
「切る・貼る・ちぎる」の3工程に分けて役割を配る
介護現場では、製作の工程を「塗る」「切る」「貼る」の3つに分け、それぞれ力を発揮しやすい人に担当してもらう進め方が定番になっています。この分担にすると、はさみが使えない方も、細かい貼り合わせが難しい方も、同じ作品づくりに関われます。
実際の割り振り例はこうです。手指がよく動く3〜4人に「切る」を任せ、顔・冠・扇子などの小さなパーツをまとめて作ってもらう。目が見えにくい方や巧緻性に不安がある方には「ちぎる」を担当してもらい、着物になる和紙をちぎってもらう。そして全員で「貼る」に合流し、自分の1体を仕上げる。落とし穴は、切る担当だけに負担が集中することです。パーツは職員が半分作っておき、当日は全員が「貼る」から始められる状態にしておくと、開始5分で全員の手が動きます。
安全面の配慮は「太い持ち手」と「個別トレー」から
工作レクで押さえておきたい安全の基本は、道具と配り方です。握力や視力を考慮して、持ち手が太いはさみ、先が丸いピンセット、大きな文字の型紙を用意します。針を使わない手芸や両面テープ中心の作業にすれば、誤刺傷のリスクを抑えられます。
配り方では、材料を人ごとの個別トレーに分けて渡し、誤飲しやすい極小パーツは最初から使わないのが基本です。おひな様の目や口をビーズで作るアイデアは見た目がきれいですが、口に入る大きさのものは避けて、ペンで描くか丸シールに置き換えます。あわせて、匂いに敏感な方には無臭のり、視力に不安がある方には濃い色と白のように差がはっきりした配色を選びます。認知症のある方が参加する場では、はさみを卓上に置いたままにせず、使うときだけ手渡す運用にすると安心です。
飾る場所と持ち帰り方を先に決めておく
作った後の置き場所を決めずに始めると、完成品が袋に入ったまま3月を過ぎてしまいます。先に「玄関の下駄箱の上」「食堂の窓際」「壁面飾りの下段」と決めておくと、サイズの上限が自然に決まります。棚幅が60cmなら1体10cm前後、10体並べても収まる計算です。
自宅に持ち帰る前提なら、立体作品は形が崩れやすい点に注意します。紙コップや芯を使った立体タイプは、持ち帰り用の紙袋を作品と同時に用意しておくと安心です。平面のちぎり絵タイプなら、色画用紙に貼ったままクリアファイルに入れて渡せます。段ボールの浅箱を用意して、作品を並べて職員が車まで運ぶ施設もあります。持ち帰りが難しい方の作品は、名前を書いた札を添えてホールに飾り、面会に来た家族に見てもらう形にすると、参加した実感が長く続きます。
- ☑ 折り紙・色画用紙(各税込110円)を人数分+予備2割
- ☐ のり(無臭タイプ)と両面テープを両方用意
- ☐ 持ち手が太いはさみ、先丸ピンセット
- ☐ 材料を入れる個別トレー(人数分)
- ☐ 顔・冠・扇子のパーツを半分は事前に切っておく
- ☐ 飾る場所と持ち帰り用の袋・箱
季節の飾り全般の作り方をまとめて知りたい方は、こちらの記事も参考になります。

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折り紙だけでできる簡単な雛人形3選

まずは、折り紙と画用紙だけで完成する3案です。刃物を使う工程が少なく、失敗しても紙1枚でやり直せるのが利点です。
①折り紙2枚の立雛|三角折り3回で座り姿になる
いちばん手数が少ないのがこの立雛です。折り紙を3回折るだけで座り姿のおひな様ができる折り方が広く紹介されていて、折り紙1枚だけで折れるタイプもあります。所要時間は1体5分、材料費は折り紙2枚で実質数円です。
作り方は、15cm角の折り紙を対角線で三角に折り、頂点を少し下に折り返して襟元を作り、左右を斜めに折って肩のラインを出します。折った部分をのりやテープで貼れば立体的になり、そのまま立てて飾れます。顔は白い丸シールか画用紙の丸に、細いペンで目と口を描くだけで十分です。室町時代に登場した雛人形の原形が、この立った姿勢の「立雛」でした。手作りでいちばん簡単な形が、実はいちばん古い形なのです。注意点は、折り目をしっかりつけないと開いてしまうこと。指の腹でしごくのが難しい方には、定規の背でなぞってもらうと折り目が決まります。
- Step1: 15cm角の折り紙を対角線で三角に折り、折り目をしっかりつける
- Step2: 頂点を1.5cmほど下に折り返して襟元を作る
- Step3: 左右の角を斜め内側に折り、肩のラインを出す
- Step4: 白い丸シールに目と口を描いて顔を貼る
- Step5: 男雛には黒い冠、女雛には金の冠を貼って完成
②ちぎり絵のおひな様|はさみを1本も使わない
はさみが使えない方が主役になれるのが、ちぎり絵のおひな様です。色画用紙を台紙にして、ちぎった和紙や折り紙を貼って着物を表現します。所要時間は1体20分、材料費は台紙用の色画用紙が税込110円で5枚分です。
手順は、台紙に着物の三角形と丸い顔の位置を薄く鉛筆で描いておき、ピンクや赤の紙を1cm前後にちぎって三角の内側に貼り重ねていくだけ。ちぎった紙の縁が不規則になることで、和紙のような風合いが出ます。指先で細かくちぎるのが難しい方は、あらかじめ職員が2〜3cm角に切った紙を渡し、それをさらに手で割ってもらう形にします。落とし穴は、のりを塗りすぎて台紙が波打つことです。液体のりではなくスティックのりを使い、紙の端だけに塗るようにすると平らに仕上がります。完成品はクリアファイルに入れてそのまま持ち帰れます。
③花紙のふんわり衣裳雛|握るだけで着物になる
ふんわりした立体感が出て、写真映えするのが花紙を使う方法です。ダイソーの「フラワーペーパー」は税込110円で5色入り100枚、ビニタイが付属しているので買ってすぐ作り始められます。所要時間は1体10分です。
作り方は、花紙2〜3枚を重ねて蛇腹に折り、中央をビニタイで留めて左右に広げます。この扇形をそのまま着物に見立て、上に紙の顔を貼れば完成です。花を作るときのように1枚ずつ丁寧に開かなくても、ざっくり広げるだけで着物のふくらみになります。握力が弱い方でも、紙をくしゃっと寄せる動きだけで形が変わるので、達成感が早く得られます。注意したいのは、花紙は薄く破れやすい点です。破れても「柔らかい布地の質感になった」と言える素材なので、やり直しを促すより、そのまま生かす方が場の雰囲気が保たれます。飾るときは風で飛びやすいので、台紙に貼るか、重みのある土台に固定します。
身近な容器が変身する立体の雛人形4選
ここからは立体タイプです。紙コップやトイレットペーパーの芯など、身近な素材を使えば手軽で経済的に作れます。立体は玄関や食堂に置いたときの存在感が段違いです。
④紙コップのお内裏様とお雛様|置いても壁にも飾れる
立体タイプの定番が紙コップです。紙コップの側面に着物となる千代紙や折り紙を巻くように貼り、折り紙で作った顔・髪・冠・扇子のパーツを貼っていきます。所要時間は1体15分、紙コップは家庭にあるものや施設の備品を使えるので追加費用はほぼかかりません。
紙コップは底が安定しているので倒れにくく、置き飾りとして扱いやすいのが利点です。底面の中心に穴をあけてモールを3本通し、内側で固定すれば土台になり、壁にも掛けられます。手順が「巻いて貼る」だけなので、細かい折り作業ができない方でも1体を自分の力で完成させられます。注意点は、紙コップの側面がわずかに斜めなので、四角い折り紙をそのまま巻くと上下に隙間ができることです。折り紙を台形に切っておくか、上下を1cmずつ折り込んで隠すときれいに収まります。柄物の千代紙を使うと、隙間そのものが模様に紛れて目立ちません。
⑤トイレットペーパー芯の芯雛|細長い形が十二単に見える
トイレットペーパーの芯は、細長い形がそのまま十二単の裾広がりに見えるので、雛人形向きの素材です。芯に合わせて折り紙で顔・着物・帯を細長く切って貼っていくだけで、1体10分ほどで仕上がります。
コツは、着物を1枚で巻かず、色を変えて3枚重ねに巻くことです。下から順に、濃い色→中間色→淡い色と重ねると、襟元が何枚も重なった衣裳に見えます。芯の直径は約4cm、高さは約11cmなので、幅4cmの帯状の紙を3本用意すれば足ります。芯は施設で集めておけば材料費ゼロです。落とし穴は、芯が転がりやすいことです。底に画用紙の丸を貼るか、下側を1cmほど内側に折り込んで座りをよくします。芯の上端に丸めた画用紙の顔をのせる作りにすると、上から見ても顔が見えて、卓に並べたときの見え方が良くなります。
⑥紙皿の丸窓雛|壁掛けにすると一気に本格的に見える
紙皿を使うと、丸い形が「丸窓から見えるおひな様」のような構図になり、手作りとは思えない仕上がりになります。紙皿1枚を台紙にして、中央に立雛や折り紙のおひな様を貼り、周囲に桃の花や菱餅の切り紙を配置します。所要時間は1体20分です。
紙皿の縁の波打った形が、そのまま額縁の役割をします。金色の折り紙を細く切って縁に沿って貼ると、金屏風の代わりになります。裏面にひもを貼れば壁掛けになり、壁面飾りの一部として組み込めます。壁に飾る作品なら、床に置く飾りと違って足元の通行を邪魔しないので、車椅子で通る廊下にも安心して並べられます。注意点は、紙皿は厚みがあるので普通のスティックのりでは重い装飾が落ちてしまうことです。中央のおひな様は両面テープで留め、細かい切り紙だけのりを使う使い分けにします。
壁に飾る前提で作るなら、季節ごとの貼り替え方をまとめたこちらも参考になります。

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⑦毛糸巻きのまるまる雛|巻くだけで衣裳ができる
7つ目は、指先を大きく動かす作業がしたい方に向く毛糸巻きです。厚紙を三角に切って土台にし、そこにピンクや赤の毛糸をぐるぐる巻いていくだけで、立体的な着物になります。所要時間は1体25分と少し長めですが、単純作業の繰り返しなので手順を覚える負担がありません。
毛糸は100円ショップの工作コーナーでも手に入り、フェルト(ダイソーで各種税込110円)を土台にすれば、はさみで切った縁がほつれずきれいに収まります。巻く作業は肩と腕を大きく動かすので、指先の細かい動きが難しい方でも参加できます。注意点は、毛糸を強く引きながら巻くと厚紙が反ってしまうことです。土台には厚めの画用紙か段ボールを使い、巻き始めと巻き終わりだけ両面テープで留めます。途中で色を変えると段になり、十二単の重なりのように見えます。
7案のどれを選んでも、最後に「金色の折り紙を細く切って縁に貼る」ひと手間を足すと見栄えが変わります。金屏風の役割をする金色が入るだけで、紙の作品が飾り物の顔になります。金銀の折り紙は液体のりが乗りにくいので、両面テープを使うのがコツです。
飾り方で差がつく|男雛と女雛の左右と飾る時期
せっかく作った雛人形も、並べ方を間違えると「あれ、逆じゃない?」と指摘されてしまいます。ここは押さえておくと安心です。
関東式と関西式で左右が逆になる理由
結論として、男雛と女雛の左右には2つの正解があります。一般社団法人日本人形協会の解説では、関西(京雛)は日本古来の左上位に従い、向かって右に男雛・左に女雛を置きます。関東式はその逆で、向かって左に男雛・右に女雛です。
関東式が広まったのは、1928年(昭和3年)の昭和天皇即位の礼を機に、当時の東京の人形組合が提唱したことがきっかけとされています。明治以降、西洋の国際儀礼で「右が上位」とされる考え方が取り入れられ、天皇と皇后が並ぶ際の位置に倣った並べ方になりました。つまりどちらも由来のある並べ方で、間違いではありません。施設で飾るなら、利用者さんの出身地に合わせるより、「今日はどちらで並べましょうか」と由来を話しながら決めると、それ自体が会話になります。判断に迷ったら、地元の人形店や自治体の展示に合わせるのが無難です。
関西出身の利用者さんが多いホールに関東式(向かって左が男雛)で並べたところ、「京都では反対だった」と指摘され、作品の話題が並べ方の議論に変わってしまうケースがあります。対策は、飾る前に「関東式と関西式があって、どちらも正解」と一言添えておくこと。並べ方の違いを先に共有しておけば、指摘が「そうなんですよ、地域で違うんです」という会話に変わります。
三人官女や五人囃子まで作るなら順番も押さえる
親王飾り(男雛と女雛を一段で飾るもの)だけでなく段飾りに挑戦する場合は、並べる順番が決まっています。日本人形協会によると、二段目は三人官女で座った官女を中央に立った官女を両側に、三段目は五人囃子、四段目は随身(左大臣・右大臣)、五段目は仕丁と左近の桜・右近の橘、六段目は雛道具、七段目は中央に重箱・左に御駕篭・右に御所車です。
段数が三・五・七といずれも奇数なのは、祝い事には奇数がよいとされたためです。雛壇は江戸時代初期には平壇で、幕末に7〜8段となり、十五人揃いが江戸末期に定着しました。施設で全員参加型にするなら、1人1体を担当して十五人を分担する進め方が向いています。ただし、七段すべてをそろえるには15体+道具が必要で、10人の卓では2回に分けないと終わりません。三人官女までの三段飾りにしておくと、1回2時間の作業で完結します。詳しい飾り方は日本人形協会の解説ページで確認できます。
飾り始めは立春から、片付けは3月4日から1週間以内
手作りでも、飾る時期の目安は本物の雛人形と同じで構いません。一般に、節分の翌日である立春(2月4日ごろ)から2月中旬ごろまでに飾り始めるのが好ましいとされています。片付けは3月3日を過ぎたら早めに、3月4日から1週間以内が目安です。
「片付けが遅れると婚期が遅れる」という言い方は俗説で、片付けのしつけとしての側面があると説明されています。手作りの紙の作品なら、湿気で反る前に片付けるという実用的な理由の方が大きいでしょう。施設では、作った当日から3月3日まで飾り、3月4日の午前に全員で片付けて持ち帰るという流れにすると、飾る・見る・片付けるの3場面すべてが行事になります。1か月近く飾るなら、直射日光が当たる窓際は避けます。折り紙の赤やピンクは日焼けで色が抜けやすく、2週間で見た目が変わります。
手作りの雛人形を「安っぽく見せない」3つの工夫
紙の作品が飾り物として見えるかどうかは、周りの演出で決まります。効くのは3点です。1つ目は下に敷く赤い布またはフェルト。赤い面の上に置くだけで、白い紙の顔が引き立ちます。2つ目は背後に立てる金色の屏風。金色の折り紙を厚紙に貼って二つ折りにすれば作れます。3つ目は高さの差です。
10体を同じ高さで一列に並べると平坦に見えますが、後列だけ本を1冊敷いて3cmほど持ち上げると、段飾りのような奥行きが出ます。あわせて、桃の花の切り紙を2〜3輪添えると季節感が加わります。注意したいのは、飾りを足しすぎることです。おひな様より目立つ大きな造花を置くと、主役が入れ替わってしまいます。添える飾りは、作品の高さの半分以下に収めるのが目安です。
手指の状態と人数で選ぶ|7案の難易度早見表
どれを選ぶか迷ったら、参加する方の手の状態と、使える時間から逆算するのが確実です。7案を条件別に整理しました。
【高齢者あんしんノート調べ】7案を難易度・時間・費用で比較
7案を、はさみを使う量、所要時間、1体あたりの材料費、向いている方の3点で整理しました。材料費は2026年時点の100円ショップの価格(税込110円商品)から1体分を割り出した目安です。
| 作り方 | 時間・費用の目安 | 向いている方 |
|---|---|---|
| ①折り紙2枚の立雛 | 5分/約5円 はさみ不要 | 折る力が残っている方 短時間で終えたい場 |
| ②ちぎり絵のおひな様 | 20分/約25円 はさみ不要 | はさみが使えない方 細かい折りが難しい方 |
| ③花紙のふんわり衣裳雛 | 10分/約10円 はさみ少し | 握力が弱い方 早く達成感が欲しい方 |
| ④紙コップのお内裏様とお雛様 | 15分/約15円 はさみ中 | 貼る作業が得意な方 立体を飾りたい場 |
| ⑤トイレットペーパー芯の芯雛 | 10分/約5円 はさみ中 | 材料費を抑えたい場 数を多く作りたい場 |
| ⑥紙皿の丸窓雛 | 20分/約30円 はさみ多め | 壁に飾りたい場 見栄えを優先する場 |
| ⑦毛糸巻きのまるまる雛 | 25分/約40円 はさみ少し | 腕を大きく動かせる方 単純作業が好きな方 |
参加人数と時間から逆算する組み合わせ方
結論として、10人以上の卓なら「1案に統一しない」方がうまく回ります。同じ作り方で全員が進むと、早い方が15分で終わって手持ち無沙汰になり、遅い方が焦ります。手の状態に合わせて2〜3案を並行させると、全員が同じ時間帯に完成に向かえます。
具体的な組み合わせ例は、10人・1時間の枠なら「①立雛4人+②ちぎり絵3人+④紙コップ3人」です。所要時間5分・20分・15分と幅がありますが、①の方には2体作ってもらい男雛と女雛のペアにすれば時間が埋まります。3人程度の少人数なら、⑥紙皿の丸窓雛のように手数が多い案を1つ選び、ゆっくり進める方が満足度が上がります。注意点は、隣の人と作り方が違うと「あの人のほうが立派」という比較が生まれることです。完成品を並べる場所を作り方ごとに分けず、混ぜて飾ると差が目立ちません。
自宅で1人、家族と一緒、施設の行事|場面別の選び方
同じ7案でも、場面によって向き不向きが変わります。自宅で1人で作るなら、①折り紙の立雛が向いています。材料が折り紙だけで、途中でやめても紙1枚が残るだけなので気楽です。玄関の靴箱の上に1組置けば、それで春の支度は終わりです。
孫やひ孫と一緒に作るなら、③花紙のふんわり衣裳雛か④紙コップです。どちらも手を大きく動かす工程があるので、小さい子と同じ卓で進められます。孫が花紙を広げ、祖父母が顔を貼るという分担にすると、上手下手が問題になりません。施設の行事なら、⑥紙皿の丸窓雛を壁面飾りと組み合わせ、⑤芯雛を人数分並べて「十五人揃い」に見立てる構成が扱いやすいです。ご家族に見せる前提なら、作品に名前の札を添えるのを忘れないようにします。誰の作品かわかることが、面会時の会話につながります。
身近な素材で作る工作をもっと知りたい方は、こちらも参考になります。

飲み終わったペットボトルのキャップ。捨てるたびに「これ、何かに使えそうなのにね」と思いながら、結局ゴミ袋に入れてしまう——そんな経験はありませんか。デイサービス…
作業中に手が止まらない声かけと、会話が広がるひと工夫
手作りの時間で難しいのは、材料より場の進め方です。手が止まった方への声かけを用意しておくと、最後まで全員が参加できます。
「上手ですね」より効く3つの声かけ
作業中の声かけは、出来映えをほめるより、手元の動きに具体的に触れる方が届きます。「上手ですね」は繰り返すと形式的に聞こえ、うまくできていないと感じている方にはかえって負担になります。
効くのは3つです。1つ目は「その色、着物に合いますね」と選択をほめる声かけ。技術ではなく好みを認める形なので、誰にでも当てはまります。2つ目は「次はどこを貼りましょうか」と手順を一緒に確認する問いかけ。3つ目は「昔のおひな様は何段でしたか」と記憶に触れる質問です。注意点は、記憶を問う質問を全員に同じように投げないことです。思い出せないことが負担になる方もいるので、答えに詰まったら「私も箱の中身は覚えていないものです」と流し、手元の作業に戻します。
ちぎり絵や紙コップで、のりを塗った紙をすぐ次の紙で押さえると、下の紙が動いて着物が波打ちます。特に液体のりを多めに塗った直後は紙が伸びるため、乾いた後に大きなしわが残ります。対策は、スティックのりに切り替え、紙の端だけに塗ること。どうしても液体のりを使うなら、1枚貼るごとに5つ数える間を置きます。この「5つ数える」を職員が声に出すと、全員のテンポがそろいます。
途中で手が止まった方への引き継ぎ方
結論として、途中でやめた作品を職員が仕上げてしまうのは避けたいところです。完成品を渡されても「自分が作った」という実感が残らず、参加の効果が薄れます。
おすすめは、残りの工程を最も簡単な動作に置き換えて本人に返す方法です。細かい貼り合わせが残っているなら、職員がパーツを位置に合わせて持ち、本人が上から押さえるだけにする。この「押さえる」だけでも本人の手で完成したことになります。体調が優れず途中で退席した方の作品は、次回の作業日まで名前をつけて保管し、続きから始められるようにします。落とし穴は、未完成品を人目につく場所に置いておくことです。本人が気にしてしまうので、箱に入れて見えないところに保管します。
実は「全員が同じものを作らない」方がうまくいく
意外と知られていないのですが、工作レクでは全員に同じ完成見本を配ると難しくなる場面があります。見本と自分の作品を見比べて「違う」と感じ、手が止まってしまうためです。特に、几帳面に仕事をしてこられた方ほどこの傾向が出ます。
そこで有効なのが、見本を2〜3種類同時に見せる進め方です。折り紙の立雛、ちぎり絵、紙コップの3つを机の中央に並べておくと、「正解が1つではない」と場に伝わり、自分の作りたい形を選ぶ空気になります。色も同じで、赤とピンクだけでなく紫や紺の折り紙も混ぜておくと、選ぶ楽しみが生まれます。注意点は、選択肢を増やしすぎると迷って決まらないことです。作り方は3案、色は5色までに絞ると、5分以内に全員の手が動き始めます。
まとめ|雛人形の手作りは110円と10分から始められる
雛人形の手作りは、道具をそろえることが目的ではありません。折り紙を三角に折る5分、色を選ぶ1分、できあがりを並べて眺める10分——その時間が、三月の楽しみになります。7案のうち、まずは所要時間5分の折り紙立雛を1組だけ作ってみるのが、いちばん確実な始め方です。
作る側で押さえておきたいのは、飾る場所を先に決めることと、工程を分けることの2点でした。飾る場所が決まっていれば作品のサイズが決まり、工程が分かれていれば手の状態が違う方も同じ卓に座れます。内閣府の令和7年版高齢社会白書では、何らかの活動に参加した人の84.6%が生きがいを感じていると答え、参加しなかった人との差は23.0ポイントありました。手を動かして飾りを作り、それが1か月ホールに飾られて誰かの目に触れる。この小さな往復が、数字の背景にあるものだと思います。
並べ方の左右で迷ったら、関東式と関西式のどちらも由来のある形だと覚えておけば十分です。段飾りに挑戦するなら、三人官女までの三段にとどめると1回の作業で完結します。飾り始めは立春(2月4日ごろ)から2月中旬、片付けは3月4日から1週間以内。この2つの日付を手帳に書いておけば、来年も同じ流れで準備できます。
最初の一歩は、買い物ではなく採寸です。飾りたい棚やテーブルの幅を測り、何体並べられるかを数えてみてください。棚幅60cmなら1体10cm前後で6体、家族の人数分のおひな様がちょうど収まります。数が決まれば、必要な折り紙の枚数も、当日の所要時間も自然に見えてきます。
※制度や商品の価格は変更される場合があります。最新情報は公式サイトや各店舗でご確認ください。介護や健康に関する個別のご相談は、担当のケアマネジャー・かかりつけ医・お住まいの自治体窓口へご確認ください。

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