「このまま一人で年を取っていったら、病気になったときは誰が気づいてくれるのだろう」「お金は足りるのかしら」。夜、ふとそんな考えが頭をよぎることはありませんか。配偶者と離別・死別した方、ずっと独身で自分らしく生きてきた方、子どもが遠方に住んでいる方。事情はさまざまでも、お一人様老後の不安は多くの人が同じように抱えています。
先に結論をお伝えすると、お一人様老後の不安は「お金」「病気と介護」「見守りとつながり」「亡くなった後の手続き」の4つに分けると、それぞれに使える公的制度や民間サービスがきちんと用意されています。漠然と怖がるより、4つの箱に分けて一つずつ「頼り先」を決めておく方が、気持ちはずっと軽くなります。
この記事では、2026年度時点の年金額や介護保険料、在職老齢年金の改正、東京都の見守り相談拠点といった最新の公的情報をもとに、一人暮らしの老後を安心して過ごすための備えを整理しました。同世代の友人とお茶を飲みながら話すような気持ちで、読み進めていただければうれしいです。
・一人暮らし高齢者の生活費と年金の実際の数字(2026年度時点)
・病気・介護・収入が途絶えたときに頼れる公的制度
・孤立を防ぐ見守りサービスと、身元保証・死後の手続きの準備
・お一人様だからこそ楽しめる、割引と趣味の上手な使い方
お一人様老後が不安になるのは当たり前?880万人時代のリアル

一人暮らしの高齢者は880万人、もう「少数派」ではない
まず知っておいてほしいのは、一人で老後を迎えるのはまったく珍しいことではない、という事実です。65歳以上で一人暮らしをしている方は880万人にのぼり、1980年時点の約180万人から大きく増えています。
背景には、平均寿命が延びて配偶者に先立たれた後の期間が長くなったこと、生涯未婚の方が増えたこと、そして子ども世帯と同居しない暮らし方が一般的になったことがあります。昭和の頃は「三世代同居」が当たり前でしたが、今は親世代・子世代がそれぞれ独立して暮らすのが普通になりました。
男女別に見ると、65歳以上の男性のうち一人暮らしは15.0%、女性では22.1%です。女性の方が平均寿命が長いため、夫を見送った後に一人暮らしになるケースが多いのです。「周りはみんな家族と暮らしているのに、私だけ」と感じている方もいるかもしれませんが、実際はご近所にも同じ立場の方がたくさんいらっしゃいます。
ただし、地域によって事情は違います。都市部では集合住宅での一人暮らしが多く、地方では広い一軒家に一人で住み続ける方が目立ちます。自分の住む地域の特徴を知っておくと、後で紹介する見守りの選び方にも役立ちます。
実は一人暮らしシニアの約75%が「今の生活に満足」
意外と知られていないけれど、一人暮らしの高齢者の約75%は日々の生活に満足していると答えています。「一人=寂しくてかわいそう」というイメージは、必ずしも実態と一致していないのです。
理由は単純で、一人暮らしには一人暮らしの自由があるからです。食事の時間も献立も自分で決められる、好きな番組を好きなだけ見られる、誰にも気兼ねせずに旅行に出かけられる。長年、家族のために時間を使ってきた方にとっては、ようやく手に入れた「自分の時間」でもあります。
たとえば、朝はゆっくり新聞を読み、昼は趣味のサークルへ、夕方は近所を散歩して、夜は好きな時代劇を見る。こうした一日を「気楽でいい」と感じる方は少なくありません。お一人様老後を不安に思う気持ちの一部は、「世間の目」から来ていることも多いのです。
とはいえ、満足している方も「体が動かなくなったら」「倒れたら」という将来の不安は持っています。今の暮らしを楽しむことと、もしもの備えをすることは両立できます。この記事は、その両方をかなえるためのものです。
不安の正体は「お金・健康・孤立・死後」の4つ
お一人様老後の不安を書き出してみると、ほとんどが「お金」「病気と介護」「孤立(誰にも気づかれない)」「亡くなった後のこと」の4つに分類できます。不安をぼんやりしたまま抱えているとどんどん大きく感じますが、分類すると対策が見えてきます。
なぜ一人暮らしだとこの4つが際立つかというと、家族と暮らしていれば自然に分担されていた役割を、すべて自分で担う必要があるからです。家計の管理、体調の変化に気づくこと、入院時の付き添いや手続き、そして亡くなった後の役所への届け出や片付け。同居家族がいればお願いできたことを、誰に頼むかを事前に決めておかなくてはなりません。
具体的には、お金なら年金と生活費の把握、健康なら介護保険と医療制度の理解、孤立なら見守りサービスと地域とのつながり、死後なら身元保証や死後事務委任契約の検討、というように、それぞれに「打ち手」があります。
注意したいのは、4つ全部を一度に片付けようとしないことです。一気にやろうとして疲れてしまい、結局何も進まなかったという話はよく聞きます。今月はお金、来月は見守り、というように、一つずつで十分です。
・65歳以上の一人暮らし:880万人(1980年は約180万人)
・65歳以上の男性に占める一人暮らしの割合:15.0%
・65歳以上の女性に占める一人暮らしの割合:22.1%
・日々の生活に満足している一人暮らしシニア:約75%
(出典:終活協議会コラム掲載データ)
老後の不安全般について、お金・健康・孤独の面から整理した記事もあわせてどうぞ。

「このまま暮らしていけるだろうか」「年金だけで足りるのだろうか」――ふとした瞬間に胸をよぎる老後への不安は、年齢を重ねるほど輪郭がはっきりしてきます。生命保険文…
一人暮らしの老後、毎月いくらあれば暮らせるのか
65歳以上の一人暮らしの平均支出は月154,601円
一人暮らしの老後に必要な生活費の目安として、よく参照されるのが総務省の家計調査です。65歳以上の無職の方が一人で暮らす場合、1か月あたりの平均消費支出は154,601円とされています。
この金額には、食費、住居費、光熱・水道費、家具・家事用品、被服、保健医療、交通・通信、教養娯楽、交際費などが含まれます。持ち家かどうかで住居費は大きく変わるため、賃貸住まいの方は平均より多めに、持ち家でローンを払い終えている方は少なめに見積もるのが現実的です。
一方で、同じ世帯の実収入は月131,456円です。つまり、平均的な一人暮らし高齢者の家計は、毎月の支出が収入を上回っていて、その差を貯蓄の取り崩しなどで埋めている状態にあります。老後が20年以上続くことも珍しくない今、この「毎月の不足分」が長く続くと、貯蓄の減り方も大きくなります。
ただし、これはあくまで全国平均です。都市部と地方では家賃も物価も違いますし、車を持っているかどうかでも支出は変わります。平均の数字に一喜一憂せず、ご自身の家計簿で1か月分を把握してみることが、いちばん確かな第一歩です。統計の詳細は総務省統計局「家計調査」で確認できます。
収入の約9割は年金、だから家計は年金額で決まる
一人暮らし高齢者の実収入131,456円のうち、年金などの社会保障給付は120,212円で、実収入の約91%を占めています。一人暮らしシニアの家計は、ほぼ公的年金で支えられているといってよいでしょう。
これは、多くの方が65歳前後で仕事を離れ、給与収入がなくなるためです。夫婦世帯なら二人分の年金が入りますが、一人暮らしでは一人分。住居費や光熱費は二人でも一人でも大きくは変わらないため、一人暮らしの方が家計のやりくりは難しくなりがちです。
具体的には、自分の年金額をまず正確に知ることが出発点です。毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」や、日本年金機構の「ねんきんネット」で、見込み額を確認できます。年金額が分かれば、平均支出と比べて「毎月どれくらい足りないか」「どれくらい余裕があるか」が見えてきます。
気をつけたいのは、年金の額面と手取りは違うという点です。年金からは介護保険料や後期高齢者医療保険料、場合によっては住民税が天引きされます。家計の計画を立てるときは、振込額(手取り)で考えるようにしましょう。
高齢者あんしんノート調べ:一人暮らし老後の家計を数字で整理
公的な統計と2026年度時点の制度の数字を、一人暮らしの老後に関係するものだけ一覧にまとめました。自分の家計と見比べるときの物差しとして使ってください。
| 項目(一人暮らし高齢者) | 金額の目安 |
|---|---|
| 平均消費支出(月) | 154,601円 |
| 平均実収入(月) | 131,456円 |
| うち年金など社会保障給付(月) | 120,212円 |
| 老齢基礎年金 満額(2026年度・月額) | 70,608円(昭和31年4月1日以前生まれは70,408円) |
| 65歳以上の介護保険料 全国平均(第9期・月額) | 6,225円 |
| 後期高齢者医療の保険料 全国平均(2025年度・月額) | 7,192円程度 |
| 身元保証サービスの入会時費用(一般的な相場) | 150万円~200万円 |
こうして並べてみると、国民年金だけで暮らす方にとって、平均支出との差は小さくないことが分かります。一方で、会社員として長く働いてきた方は厚生年金が上乗せされるため、状況はかなり違ってきます。
表の数字は年度ごとに改定されるものが多く、特に保険料は住んでいる自治体によって金額が異なります。ご自身の正確な額は、年金の振込通知書や、市区町村から届く保険料の通知で確認してください。
失敗パターン①:「なんとかなる」で家計を見ないまま70代に
お一人様老後でよくある失敗が、退職後もしばらく現役時代と同じ感覚でお金を使い続け、数年後に貯蓄の減り方に驚くケースです。
たとえば、退職金が入ったことで気が大きくなり、旅行や外食、家のリフォームに次々とお金を使ってしまう。毎月の赤字は貯蓄の取り崩しで埋めているため、口座残高を見るまで家計の実態に気づけません。70代に入って通帳を見たら、想定よりずっと早く貯蓄が減っていた、というのは珍しい話ではありません。
原因は、「毎月いくら入って、いくら出ているか」を一度も数字で確認していないことです。家族と暮らしていれば配偶者が家計を見ていたり、子どもが気づいて声をかけてくれたりしますが、一人暮らしではその「ブレーキ役」がいません。
誕生月に届くねんきん定期便を合図に、年金の手取り額・1か月の支出・貯蓄残高の3つだけをノートに書き出しましょう。毎年同じ時期に比べることで、「去年より貯蓄の減り方が早い」といった変化に早めに気づけます。細かい家計簿がつけられなくても、この3つだけで十分です。
年金はいくら入る?2026年度の金額と働きながら受け取る道

2026年度の老齢基礎年金は満額で月70,608円
日本年金機構によると、2026年度(令和8年度)の老齢基礎年金は、満額で月額70,608円です(昭和31年4月2日以後生まれの方)。昭和31年4月1日以前生まれの方は月額70,408円となっています。
2025年度の満額は月額69,308円でしたので、1.9%の引き上げです。年金額は物価や賃金の動きに応じて毎年度見直される仕組みになっていて、2026年度は物価上昇などを反映して増額になりました。
ここで注意したいのは、「満額」は20歳から60歳まで40年間すべて保険料を納めた場合の金額だという点です。未納期間や免除期間があれば、その分だけ受け取る額は少なくなります。ご自身の実際の見込み額は、ねんきん定期便かねんきんネットで確認するのが確実です。
また、年金額が少ない方には「年金生活者支援給付金」という上乗せの制度があります。2026年度の老齢年金生活者支援給付金の基準額は月額5,620円(2025年度は5,450円)です。所得などの要件があり、実際の支給額は保険料の納付期間などで変わります。対象になりそうな方には日本年金機構から案内が届くので、見逃さずに手続きしましょう。詳しくは日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」で確認できます。
厚生年金の「標準的な年金額」は夫婦2人分の数字
ニュースなどで「厚生年金は月237,279円」という数字を見て、「自分もそれくらいもらえるはず」と思う方がいますが、これは一人暮らしの方がそのまま当てはめてはいけない数字です。
この237,279円(2026年度・月額)は、平均的な収入(平均標準報酬45.5万円)で40年間働いた会社員と、専業主婦(夫)の配偶者という夫婦2人分の老齢基礎年金を含んだモデルの金額です。2025年度は232,784円でした。つまり、一人分の年金ではなく、夫婦の合計額なのです。
お一人様の場合、自分の厚生年金(報酬比例部分)と自分一人分の老齢基礎年金が受け取る年金になります。会社員として働いた年数や当時の給与によって、厚生年金の額は人によって大きく違います。モデル額から自分の金額を推測するのではなく、ねんきん定期便の「老齢年金の見込額」の欄を見てください。
また、配偶者と死別した方は遺族年金を受け取っている場合もありますし、離婚した方は年金分割の対象になっていることもあります。こうした個別の事情は窓口で確認するのが確実です。年金事務所では予約制で相談を受け付けています。
2026年4月から「働いても年金が減りにくく」なった
お一人様老後の家計を支える方法として、「働きながら年金を受け取る」選択肢が広がりました。2026年4月から在職老齢年金制度が改正され、年金が減額される基準額が月51万円から月65万円に引き上げられたのです。
在職老齢年金とは、厚生年金に加入しながら働く60歳以上の方について、賃金と老齢厚生年金の合計が一定額を超えると、年金の一部または全部が支給停止になる仕組みです。改正の趣旨について日本年金機構は、平均寿命・健康寿命が延びる中で、働き続けることを希望する高齢者の活躍を後押しし、より働きやすい仕組みにするためと説明しています。
日本年金機構が示している例では、老齢厚生年金の基本月額が10万円、賃金(総報酬月額相当額)が46万円の方の場合、改正前は合計56万円が51万円を超えるため2.5万円が支給停止され、年金は7.5万円でした。改正後は合計が65万円以下なので、年金は10万円全額が支給されます。
ただし、この制度の対象は厚生年金に加入して働く方です。パートで厚生年金に入らない働き方なら、もともと在職老齢年金の調整は受けません。また、老齢基礎年金は調整の対象外です。ご自身の働き方でどうなるかは、日本年金機構「在職老齢年金制度が改正されました」のページや年金事務所で確認してください。
「年金だけで足りない分」をどう埋めるかは人それぞれ
年金だけで平均的な支出をまかなえない場合、埋め方は大きく分けて「働いて収入を増やす」「支出を減らす」「貯蓄を計画的に取り崩す」の3つです。どれが正解ということはなく、体力や貯蓄額、暮らし方の希望によって組み合わせを考えます。
たとえば、体が元気なうちは週3日のパートで収入を補い、貯蓄にはなるべく手をつけない。70代に入って働くのがしんどくなったら、貯蓄を少しずつ取り崩す。こうした「時期で使い分ける」考え方は、お一人様には現実的な選択肢です。
支出を減らす方法としては、固定費の見直しが効果的です。使っていない保険の解約、携帯電話の料金プランの見直し、車を手放して公共交通とタクシーに切り替えるといった選択は、毎月の支出を確実に減らします。一度見直せば、その効果がずっと続くのが固定費のよいところです。
ただし、焦って投資話や高利回りをうたう勧誘に飛びつくのは危険です。一人暮らしの高齢者は、相談相手がいないことを狙われやすい立場にあります。「必ずもうかる」「今だけ」といった話は、一度持ち帰って信頼できる人に相談する習慣をつけましょう。
| 働き続けるメリット | 気をつけたい点 |
|---|---|
| 収入が増え、貯蓄の取り崩しを先送りできる 職場の人との会話が生まれ、孤立を防げる 2026年4月から年金が減額されにくくなった | 体調を崩すと収入が途絶える 通勤や立ち仕事の負担が年々重くなる 働き方によって社会保険の扱いが変わる |
病気や介護が心配なときに頼れる公的制度は?
75歳からは後期高齢者医療制度、窓口負担は原則1割
一人暮らしで病気になったとき、まず気になるのが医療費です。75歳以上の方は後期高齢者医療制度に加入し、病院の窓口で支払う負担割合は原則1割になります。一定以上の所得がある方は2割、現役並みの所得がある方は3割です。
2割負担の区分は2022年(令和4年)10月から設けられたもので、それまで1割だった方の一部が2割になりました。70~74歳の方は原則2割(現役並み所得者は3割)です。自分がどの区分に当たるかは、保険証(資格確認書)やマイナ保険証の情報で確認できます。
後期高齢者医療の保険料は都道府県ごとに決まり、全国平均の月額は2024年度で7,082円程度、2025年度で7,192円程度とされています。多くの方は年金から天引きされるため、「気づいたら引かれていた」ということも。保険料の年間の上限(賦課限度額)は2026年度で85万円です。
保険料や負担割合は住んでいる都道府県や所得で変わるため、正確な額は市区町村の窓口や送られてくる通知で確認しましょう。制度の概要は厚生労働省の後期高齢者医療制度のページにまとめられています。
医療費が高額になっても「上限」がある安心
入院や手術で医療費が高くなっても、1か月の自己負担には上限があります。これが高額療養費制度です。70歳以上で一般的な所得の方の場合、1か月の上限は57,600円(外来のみは18,000円)が目安です。
この制度があるおかげで、たとえ大きな病気をしても、公的医療保険の対象となる治療費については際限なく支払うことにはなりません。お一人様の場合、「入院したら貯金が全部なくなるのでは」と心配する方が多いのですが、上限を知っておくだけで気持ちがずいぶん落ち着くはずです。
具体的には、70歳以上の方は保険証(資格確認書)やマイナ保険証を提示すれば、窓口での支払いが自動的に上限までになる仕組みが整っています。所得区分によって上限額は変わるため、事前に自分の区分を確認しておくと安心です。
注意点として、入院時の食事代、差額ベッド代(個室料金)、日用品代などは高額療養費の対象外です。一人暮らしだと入院中の洗濯や買い物を頼める人がいないため、病院のレンタルサービスを使う費用もかかります。医療費の上限とは別に、これらの「保険外の費用」も少し見込んでおきましょう。
介護保険は「申請しないと始まらない」制度
65歳以上の方は介護保険の第1号被保険者として、保険料を納めています。第9期(2024~2026年度)の65歳以上の介護保険料は、全国平均で月額6,225円です。前期から3.5%の引き上げとなりました。
介護保険のサービスは、ホームヘルパーの訪問やデイサービスなどの在宅系サービスと、特別養護老人ホームなどの施設・居住系サービスに分かれています。一人暮らしの方にとっては、ヘルパーさんが定期的に訪ねてくれること自体が、見守りの役割も果たしてくれます。
大切なのは、介護保険は「自分から申請しないと始まらない」という点です。家族と暮らしていれば家族が気づいて手続きしてくれることも多いのですが、一人暮らしではその役を担う人がいません。市区町村の窓口や地域包括支援センターに相談し、要介護認定の申請をすることで、はじめてサービスが使えるようになります。
「まだ介護なんて早い」と思っている方も、地域包括支援センターの場所だけは今のうちに確認しておきましょう。介護予防の教室や健康相談など、元気なうちから使えるサービスも用意されています。制度の全体像は厚生労働省の介護・高齢者福祉のページで確認できます。
それでも生活が立ち行かないときの生活保護制度
年金が少なく貯蓄も尽きてしまった、病気で働けなくなった。そんなときの最後のセーフティーネットが生活保護制度です。生活保護は、困ったときに誰もが申請できる国民の権利であり、恥ずかしいことではありません。
生活保護は、世帯の収入が国の定める最低生活費に届かないこと、一定の資産基準以下であること、働く能力やほかの制度の活用を前提とすることなどが要件です。年金を受け取っていても、その額が最低生活費に満たなければ、差額分の保護を受けられる場合があります。
申請の窓口は、住んでいる市区町村の福祉事務所です。いきなり申請に行くのが不安な方は、まずは「相談」として訪ねてみましょう。持ち家や車の扱いなど、個別の事情によって判断が分かれるところは、窓口で具体的に説明してもらえます。
気をつけたいのは、「親族に連絡がいくのが嫌だから」と我慢しすぎて、食事を抜いたり病院に行かなかったりすることです。体を壊してしまえば、立て直しにはもっと時間がかかります。制度の概要は厚生労働省の生活保護制度のページで確認できます。
保険証(資格確認書)やお薬手帳、かかりつけ医の連絡先、介護保険証は、ひとつのクリアファイルにまとめて玄関近くに置いておきましょう。一人暮らしで急に救急車を呼んだとき、救急隊員がすぐに見つけられます。冷蔵庫に「医療情報はここ」と書いたメモを貼っておくのも、多くの自治体がすすめている方法です。
倒れても気づかれない…を防ぐ見守りとつながり
2026年4月、東京都に「見守り相談拠点」が110か所
一人暮らしで最も怖いのは、家の中で倒れたときに誰にも気づかれないことではないでしょうか。こうした不安に応えるため、自治体の見守り体制も強化されています。東京都では2026年(令和8年)4月1日から、高齢者の見守りを主な業務とする相談拠点が、23区市町村に110拠点設けられました。
この拠点では、社会福祉士や介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格を持つ相談員が、電話での相談に応じるほか、高齢者のお宅を戸別に訪問します。さらに、地域のさまざまな組織や住民と連携して見守りのネットワークをつくり、一人暮らしなど孤立しがちな高齢者を必要な支援につなげる役割を担っています。
背景には、一人暮らしの高齢者が増えるなかで、困りごとを自分から発信できずに孤立してしまう方が少なくないという現実があります。「相談窓口に行く」のではなく、相談員の方から出向く「アウトリーチ」を強めたのが特徴です。
東京都以外にお住まいの方も、多くの市区町村で民生委員の訪問や、地域包括支援センターによる見守りの仕組みがあります。内容は自治体によって違うので、「一人暮らしの高齢者向けの見守りはありますか」と市区町村の高齢福祉の窓口に聞いてみましょう。東京都の取り組みは東京都福祉局「高齢者見守り相談窓口」で紹介されています。
カメラは嫌…なら「気配で見守る」サービスもある
見守りサービスというと、「部屋にカメラを付けられて監視されるのは嫌」と感じる方も多いと思います。でも実は、カメラ以外にも生活の気配でそっと見守る方法がいろいろあります。
非接触型の見守りの例としては、人感センサーで一定時間動きがないと通知が届くもの、電気メーターの使用量の変化で安否を確認するもの、スマートフォンに通知が届くシステムなどがあります。電気の使い方は毎日の生活リズムを映すので、朝になっても電気が使われない、といった異変に気づきやすいのです。
たとえば、遠方に住む子どもや甥・姪、親しい友人を通知先にしておけば、「今日は様子が違う」とすぐに連絡をもらえます。家族がいない方でも、見守りサービスの事業者が駆けつけてくれるプランを選べば安心です。
注意したいのは、機器を付けただけで安心してしまうことです。通知先の人が電話に出られなかったらどうするか、合鍵を誰に預けておくかまで決めておかないと、せっかく異変に気づいても部屋に入れません。サービスを選ぶときは、「通知の後に誰がどう動くか」まで確認しておきましょう。
人とのつながりは「ゆるく複数」がちょうどいい
機器による見守りと同じくらい大切なのが、人とのつながりです。ポイントは、一人の人に頼り切るのではなく、「ゆるいつながりを複数」持っておくことです。
なぜ複数が大切かというと、頼りにしていた一人が入院したり引っ越したりすると、つながりがゼロになってしまうからです。友人も同じように年を重ねていきます。趣味のサークルの仲間、ご近所の顔見知り、行きつけのお店の店員さん、民生委員さん。それぞれは浅いつながりでも、数があれば「最近見かけないね」と気づいてくれる人が増えます。
具体的には、毎週決まった曜日に行く場所を1つ作るのがおすすめです。朝のラジオ体操、図書館の読み聞かせボランティア、公民館の体操教室など、「毎週その時間にいる人」になると、休んだときに誰かが気づいてくれます。
とはいえ、人付き合いが苦手な方が無理に輪に入る必要はありません。あいさつを交わすだけの関係でも立派なつながりです。自分が心地よいと感じる距離感で、少しずつ増やしていけば十分です。
- Step1: 市区町村の高齢福祉窓口か地域包括支援センターに、一人暮らし向けの見守り制度があるか聞く
- Step2: 異変があったときの連絡先(家族・友人・事業者)を2人以上決め、合鍵の預け先も決める
- Step3: 毎週決まった曜日に顔を出す場所を1つ作り、「いつもの人」になっておく
見守りの担い手は家族だけではない
「見守りをお願いできる家族がいない」と悩む方もいますが、見守りの担い手は家族に限りません。地域には、若い世代や子育て中の方、定年退職した方など、さまざまな立場の人が見守り活動に関わっています。
その背景には、家族だけで高齢者を見守るのはもはや難しい、という社会全体の認識があります。新聞配達や宅配、電気・ガスの検針員、郵便局など、日頃から家を訪れる事業者と自治体が協定を結び、異変に気づいたら連絡する仕組みを持つ地域も増えています。
具体的には、新聞がたまっている、夜になっても洗濯物が干しっぱなし、といった「いつもと違う」様子に気づいた人が、自治体や地域包括支援センターに知らせてくれます。自分では意識していなくても、実は多くの人の目に守られているのです。
ただ、こうした見守りは「気づいてもらう」仕組みなので、長期の旅行や入院で家を空けるときは、ご近所や民生委員さんに一声かけておくと、余計な心配をかけずに済みます。つながりは、こちらからも少し情報を出すことで、より確かなものになります。
身元保証人がいないと入院できない?終活で決めておくこと
入院や施設入居で求められる「身元保証人」の役割
お一人様老後で見落とされがちなのが、身元保証人の問題です。病院に入院するときや高齢者施設に入居するとき、多くの場合「身元保証人」を求められます。家族がいれば当然のように頼める役割ですが、お一人様にとっては大きな壁になります。
身元保証人に求められる役割は、緊急時に駆けつけること、入院費や施設費用の立て替え、医療に関する本人の意思を伝えることなどです。しかも、身元保証は一度きりではなく、生涯にわたって何度も必要になる可能性があります。入院のたび、施設を移るたびに、また誰かにお願いしなければならないのです。
たとえば、兄弟姉妹に頼もうと思っても、相手も同じように高齢になっていて、いざというときに動けないことがあります。甥や姪に頼むのも、関係が遠いと気が引けるものです。
対策としては、元気なうちに「誰に頼むか」を決めておくこと、頼める人がいなければ身元保証サービスを検討することです。いざ入院が決まってから探し始めると、選ぶ余裕がありません。身元保証の考え方は日本郵便の終活コラムでも詳しく紹介されています。
身元保証サービスの費用相場は150万円~200万円
頼れる親族がいない方の選択肢となるのが、身元保証や生活支援、死後の手続きまでを請け負う「高齢者終身サポート事業者」です。日本郵便の終活コラムによると、こうした事業者との契約で入会時にかかる費用は、一般的に150万円~200万円程度が相場とされています。
費用には、身元保証の契約料、日常の生活支援にかかる費用、亡くなった後の手続きを代行する死後事務委任の報酬、そして実費分などが含まれるのが一般的な構成です。まとまった金額に見えますが、何年にもわたる支援と死後の手続きまでを含めた費用だと考えると、内容をよく見比べる価値があります。
具体的に比べるときは、「入会金」「月々の費用」「預託金(あらかじめ預けておくお金)」の3つに分けて見積もりをもらうと分かりやすくなります。同じ総額でも、どの部分にいくらかかるかは事業者によってさまざまです。
注意したいのは、契約内容や解約時の返金ルールを十分に確認しないまま契約してしまうことです。事業者によってサービスの範囲はまちまちで、途中で解約したときに預けたお金がどれだけ戻るかも違います。契約前に、複数の事業者から話を聞き、信頼できる第三者にも見てもらうと安心です。
死後事務委任契約で「亡くなった後」を託しておく
お一人様にとってもう一つ大切なのが、亡くなった後の手続きを誰に任せるかです。家族がいれば自然に担ってもらえることも、一人暮らしでは誰かに託しておく必要があります。そのための仕組みが「死後事務委任契約」です。
死後事務委任契約で任せられるのは、死亡届などの公的な届け出、葬儀や納骨の手配、遺品整理、未払いの医療費や家賃などの清算、公共料金やさまざまなサービスの解約といった手続きです。こうした手続きは想像以上に多く、誰も担う人がいないと、住まいの大家さんや自治体が困ってしまうことになります。
契約の相手は、信頼できる友人や知人のほか、司法書士・行政書士などの専門家、先ほどの終身サポート事業者などが考えられます。どこまでを任せるか、費用をどう準備しておくかは、相手と話し合って決めていきます。
なお、財産を誰に遺すかは「遺言」、亡くなった後の事務手続きは「死後事務委任契約」と、役割が分かれています。どちらか一方だけでは足りない場合もあるため、手続きの詳細や法的な効力については、専門家に相談して確認するようにしてください。
- ☐ 入院時に身元保証をお願いできる人(またはサービス)を決めた
- ☐ 延命治療など医療についての希望を書き残した
- ☐ 通帳・保険・年金の情報を一か所にまとめた
- ☐ 葬儀やお墓についての希望を書き残した
- ☐ 亡くなった後の手続きを誰に託すか決めた
- ☐ スマホやパソコンのパスワードの扱いを決めた
チェックリストの中身を書き残すには、エンディングノートが便利です。無料で手に入る入手先をまとめた記事もどうぞ。

「そろそろエンディングノートを書いてみようか」と思ったとき、多くの方が最初につまずくのが「どれを買えばいいのか分からない」という壁です。書店に並ぶノートは1冊2…
失敗パターン②:「まだ元気だから」と先延ばしにして判断できなくなる
終活でいちばん多い失敗は、「まだ元気だから」と先延ばしにしているうちに、急な入院や認知機能の低下で、自分で判断や契約ができなくなってしまうケースです。
たとえば、70代半ばで脳梗塞を起こして入院し、身元保証人がいないために病院のソーシャルワーカーさんが対応に追われる。本人は意思を伝えるのが難しい状態で、通帳や印鑑がどこにあるのかも誰にも分からない。こうした状況になってから準備を始めるのは、本人にとっても周りにとっても大きな負担です。
原因は、終活を「死ぬ準備」と考えて、気が進まないまま後回しにしてしまうことにあります。でも本当は、終活は「最後まで自分らしく生きるための準備」です。判断できるうちに決めておくからこそ、自分の希望どおりにしてもらえるのです。
毎年の誕生日に、エンディングノートを1ページだけ書き足す、と決めてしまいましょう。1年に1ページでも、5年たてば5ページ分の準備が進みます。内容は気持ちの変化に合わせて書き直してかまいません。大切なのは、判断できるうちに始めておくことです。
楽しく暮らすお一人様老後のコツ|割引と趣味で毎日に張りを
映画は60歳から1,400円、イオンシネマは55歳から1,100円
お一人様老後は「備え」だけでなく、「楽しむこと」も同じくらい大切です。自由に使える時間があるお一人様にとって、シニア割引は暮らしを豊かにしてくれる心強い味方です。たとえば映画館のシニア割引は、60歳以上で1,400円が基本になっています。
TOHOシネマズのシニア料金は、2026年7月1日の料金改定で1,400円(60歳以上)になりました。ユナイテッド・シネマやシネプレックスは1,300円(60歳以上)、イオンシネマは55歳以上から1,100円と、映画館によって年齢も金額も違います。
一人で映画館に行くのは気が引ける、という方もいるかもしれませんが、平日の昼間の映画館は一人で来ているシニアの方がたくさんいます。誰にも気をつかわず、観たい作品を観たい時間に選べるのは、お一人様ならではの楽しみ方です。
注意点として、シニア割引を使うには年齢を確認できる書類が必要です。健康保険の資格確認書や運転免許証、シニア向けの会員証などを持っていきましょう。料金は変わることがあるので、出かける前に各映画館の公式サイトで確認しておくと安心です。映画館ごとの料金は、こちらの記事で比較しています。

「映画のシニア割引って何歳から使えるの?」「どこの映画館が一番安いの?」——60歳前後になると、ふとこんな疑問が浮かびますよね。実は、映画館によって対象年齢が6…
趣味を持つ人は健康寿命が長いという研究も
趣味は単なる暇つぶしではありません。趣味を持つ高齢者は、持たない高齢者に比べて健康寿命が長いという研究結果もあります。日々の生活に目的と充実感をもたらす「生きがい」になるからです。
一人暮らしでは、何も予定がないと一日中誰とも話さずに過ごしてしまうことがあります。趣味があると「明日はあれをやろう」という予定が生まれ、生活にリズムができます。体を動かす趣味なら体力の維持にもつながりますし、人と一緒にする趣味なら自然と会話が生まれます。
シニアに人気の趣味としては、グラウンドゴルフやゲートボール、健康体操、カラオケ、旅行、ハイキング、陶芸、地域のサークル活動、ボランティア活動などが挙げられます。体力や好みに合わせて、無理なく続けられるものを選ぶのがコツです。
ただし、「何か趣味を持たなければ」と焦る必要はありません。若い頃に好きだったこと、気になっていたけれど時間がなくてできなかったことを思い出してみるだけでも、ヒントが見つかるものです。一つに決めず、いくつか試してみて合うものを残していきましょう。
趣味の仲間は「もしも」のときの支えにもなる
趣味のよいところは、楽しいだけでなく、人とのつながりを自然に生んでくれることです。趣味を共有する仲間と一緒に活動していると、共通の話題をきっかけに、深い友情が育まれることもあります。
この「趣味仲間」は、先に紹介した見守りの面でも心強い存在です。毎週の活動に来なかったら「どうしたのかな」と気にかけてくれますし、ちょっとした困りごとを気軽に相談できる相手にもなります。家族や近所付き合いとはまた違う、同じ楽しみを持つ仲間ならではの関係です。
たとえば、地域のグラウンドゴルフの会に入った方が、仲間同士で連絡先を交換し、体調を崩したときに買い物を手伝ってもらった、という話はよく耳にします。楽しみのためのつながりが、いざというときの支えにもなるのです。
ただし、人間関係が負担になるほど深入りする必要はありません。気が合わないと感じたら、別の会に移るのも一つの方法です。お一人様の強みは、自分に合う場所を自由に選び直せることでもあります。
タイプ別:お一人様老後の備え方と楽しみ方
同じお一人様でも、これまでの人生や今の状況によって、優先すべきことは違います。代表的なタイプ別に、重点を置きたいポイントを整理しました。
| あなたのタイプ | 重点を置きたいこと |
|---|---|
| 60代前半でまだ働いている | 在職老齢年金の改正を踏まえ、働き続ける期間を検討。趣味の場も今のうちに作る |
| 配偶者を見送って一人になった | 遺族年金など自分の年金を確認し、家計を一人分に組み直す。つながりの場を1つ作る |
| 子どもが遠方に住んでいる | 見守りサービスの通知先を子どもにし、合鍵を近所の信頼できる人に預ける |
| 頼れる親族がいない | 身元保証サービスと死後事務委任契約を元気なうちに比較検討する |
| 地方の一軒家に一人で住んでいる | 車を手放した後の移動手段と、住み替えの可能性を早めに考える |
どのタイプにも共通するのは、「元気なうちに、判断できるうちに動く」ということです。表の中から自分に当てはまる行を見つけて、まず一つだけ取り組んでみてください。
まとめ
一人で年を重ねることは、決して特別なことでも、かわいそうなことでもありません。まずは今日、ねんきん定期便を引き出しから出して、自分の年金額を確かめるところから始めてみませんか。
※記事内の年金額・保険料などは2026年度時点の情報です。最新情報は日本年金機構・厚生労働省・お住まいの市区町村の公式サイトでご確認ください。

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