「そろそろエンディングノートを書いてみようか」と思ったとき、多くの方が最初につまずくのが「どれを買えばいいのか分からない」という壁です。書店に並ぶノートは1冊2,000円を超えるものもあり、続くかどうか分からないものにお金を出すのはためらわれます。
結論から言えば、エンディングノートは無料で手に入ります。お住まいの市区町村の窓口でもらえるもの、法務局が司法書士会と共同で作ってPDFで公開しているもの、社会福祉協議会が著作権フリーで配っているもの、スマートフォンのアプリまで、選択肢は思っている以上に豊富です。しかも無料版は「お試し版」ではなく、本文18ページ、記入項目8分野といった本格的な内容のものが主流になっています。
この記事では、2026年8月時点で実際に無料で入手できるエンディングノートを、自治体・公的機関・アプリの3ルートに分けて具体名で紹介します。あわせて、無料版と市販品の違い、書く順番、書き終えたあとの保管方法、そして「エンディングノートでは足りない場面」までまとめました。読み終えたときには、今日中に1冊を手元に用意して、最初の1ページを書き始められるはずです。
・市区町村の高齢福祉窓口・地域包括支援センターで無料配布されている自治体が多い
・大阪法務局や社会福祉協議会がPDF・Word・Excel版を無料公開している
・三菱UFJ信託銀行「わが家ノート by MUFG」など無料アプリでも書ける
・エンディングノートに法的効力はない。財産の分け方を確実に残すなら遺言書との併用が必要
エンディングノートは無料で手に入る|始める前に知っておきたい3つのこと

無料のエンディングノートを探す前に、まず「無料版で何ができて、何ができないのか」を押さえておくと、あとで買い直したり書き直したりする手間がなくなります。ここでは中身・分量・効力の3点を整理します。
無料版でも書ける中身は市販品とほとんど変わらない
無料のエンディングノートに書ける項目は、市販品と大きな差がありません。たとえば静岡市が公開している「エンディングノート〜これからの人生を豊かにしていくために〜」は、(1)自分のこと (2)これからの人生を豊かにするために (3)もしものときの医療介護の希望 (4)大切な人へのメッセージ (5)もしものときの葬儀お墓の希望 (6)資産遺言相続について (7)「終活」をスムーズに進めるために (8)緊急連絡先一覧、という8項目で構成されています。
なぜここまで充実しているかというと、自治体版は「ひとり暮らしの高齢者が倒れたとき、支援する側が困らないように」という実務上の必要から作られているからです。連絡先・かかりつけ医・保険証の保管場所といった、いざというときに真っ先に必要になる情報が前半に配置されているのはそのためです。
注意点として、自治体版はその地域の相談窓口一覧が巻末に載っていることが多く、他の地域にお住まいの方がそのまま使うと連絡先だけが合いません。書式は使えますが、窓口情報は自分の地域のものに置き換えてください。
「無料=薄い簡易版」ではない。18ページ超の本格版が主流
無料版は数ページのチラシのようなものだと思われがちですが、実際は違います。横浜市青葉区版の「わたしノート」は表紙・裏表紙・目次を除いて本文18頁、大阪府の尾崎社会福祉協議会が公開しているものは全20ページあります。岡山市のエンディングノートに至ってはPDFで24.20MB、Word版で26.91MBという分量です。
この背景には、2010年代後半から全国の自治体が終活支援に取り組み始め、地域包括支援センターの現場の声を反映しながら改訂を重ねてきた経緯があります。新宿区の「わたしのノート」は、高齢者へのインターネットの普及やデジタル資産の運用を踏まえて内容が見直されました。ネット銀行やサブスクリプションの契約先を書く欄が加わるなど、時代に合わせて更新されているのが実態です。
ただし、分量が多いことは必ずしも良いことばかりではありません。20ページ以上あるノートを1ページ目から順に埋めようとすると、多くの方が3ページ目あたりで手が止まります。後述する「書く順番」を先に決めてから取りかかるのが、続けるコツです。
法的効力はない。だからこそ気軽に書き始められる
エンディングノートには法的効力がありません。たとえば「預金は長女に」と書いても、相続人がその通りに分ける義務は生じません。法的な効力を持たせるには、民法に定められた方式を満たした遺言書が必要です。
この「効力がない」という点は弱点のように見えますが、書き始める側にとっては大きな利点でもあります。決まった書式に縛られず、思いついた順に、書ける欄から埋めていけるからです。日付や押印の要件を気にする必要もなく、内容を何度書き直しても問題ありません。実務的には、財産の分け方など法的手続きが必要な内容は遺言書に、そこに書ききれない希望・思い・情報の在りかはエンディングノートに、と役割を分けて併用する形が一般的です。
エンディングノートに「遺言」と表題をつけて財産の分け方を書いても、それだけで遺言書として扱われるとは限りません。相続で確実に希望を通したい部分がある場合は、遺言書を別に用意するか、司法書士・弁護士などの専門家や最寄りの法務局にご相談ください。
終活そのものの全体像から整理したい方は、こちらの記事もあわせてどうぞ。

「そろそろ終活でも」と口にしてみたものの、では何から手をつければいいのか。ノートを1冊買ってはみたけれど、最初のページで手が止まったまま引き出しにしまってある—…
市区町村の窓口でもらえる|自治体版が最初の1冊に向く理由
無料で手に入れる方法として、最も確実で最も見落とされているのが「お住まいの市区町村でもらう」というルートです。多くの自治体が高齢福祉の担当課や地域包括支援センターで無料配布しています。
新宿区・横浜市青葉区の実例|どこでもらえるのか
新宿区のエンディングノート「わたしのノート」は、高齢者支援課と地域の高齢者総合相談センターの窓口で配布されているほか、区のホームページからPDF版(715KB)とExcel版(1.2MB)をダウンロードできます。友人・知人の連絡先、自身の財産、医療情報、葬儀のことなどを整理する内容です。
横浜市青葉区版の「わたしノート」は、青葉区役所2階34番窓口、区内の地域ケアプラザ、青葉区社会福祉協議会の3か所で受け取れます。ページごとの個別ダウンロードと全ページ一括ダウンロードの両方に対応し、パソコンで入力できるWord版も用意されています。前半の「わたしノート」でプロフィール・人生経歴・今後のこと・連絡先を、後半の「もしもノート」で財産やペット、介護、延命措置・遺言、葬儀・墓、メッセージを扱う二部構成です。
注意したいのは、どの自治体も同じ場所で配っているわけではないという点です。区役所本庁の窓口だけの自治体もあれば、地域包括支援センターに置いている自治体もあります。行く前に電話で「エンディングノートを配布していますか、どの窓口ですか」と確認すると、二度手間を防げます。
つくば市・岡山市・静岡市|配布場所は「福祉の窓口」が中心
つくば市の「わたしの生き方ノート」は、地域包括支援課、地域包括支援センター、高齢者支援センター(老人福祉センター)、窓口センター、保健センター、いきいきプラザという6系統の窓口で配布されています。入手が難しい場合は市のサイトからPDFを印刷して使う案内も出ています。
岡山市のエンディングノートは、地域包括ケア推進課(保健福祉会館9階)、各区役所・支所・地域センター、地域包括支援センターで無料配布され、PDF・Wordの両方がダウンロードできます。記入方法についてのQ&A資料も一緒に公開されているため、「この欄は何を書けばいいのか」で止まったときに助けになります。
静岡市も同様に、地域包括ケア推進課(静岡庁舎新館14階)、地域包括支援センター、各区の高齢介護課で配架しています。共通しているのは、配布場所が「高齢福祉」「地域包括」を名前に含む部署だという点です。市役所の総合案内で「終活のノートが欲しい」と伝えれば、たいていはこの窓口に案内してもらえます。
- Step1: 「(お住まいの市区町村名) エンディングノート」で検索する。公式サイト内にPDFやWordのダウンロードページがあればその場で入手できる
- Step2: 見つからなければ、市区町村の高齢福祉課・地域包括支援課に電話し「エンディングノートの配布はありますか」と聞く
- Step3: それでもなければ、最寄りの地域包括支援センターへ。センター独自に作成・配布している地域もある
失敗パターン|引っ越し前の自治体版を使い続けて連絡先が全部古い
実際に起きやすいのが、子ども世帯の近くへ転居したあとも、以前住んでいた市の版をそのまま使い続けてしまうケースです。巻末の相談窓口一覧、地域包括支援センターの電話番号、緊急時の連絡フローがすべて旧住所の地域のものになっているため、いざというときに家族がかけた電話がつながりません。
原因は、エンディングノートを「一度書いたら完成する書類」と捉えてしまうことにあります。実際には住所・かかりつけ医・連絡先は数年で変わります。対策はシンプルで、転居したらまず新しい自治体版を1冊もらい、書いた内容を書き写すこと。ノート全体を書き直す必要はなく、連絡先と窓口情報のページだけ差し替えれば十分です。Word版・Excel版をダウンロードして使っていれば、この修正は数分で終わります。
今すぐ印刷して使える|無料ダウンロードできる5つの入手先

窓口へ出向く時間がない方、あるいは今夜から書き始めたい方には、パソコンでダウンロードして印刷する方法があります。ここでは公的機関・公益団体・大手企業が公開している、信頼できる5つの入手先を紹介します。
大阪法務局×大阪司法書士会|遺言と相続に強い3点セット
大阪法務局は、相続登記を促進する取組の一つとして大阪司法書士会と共同でエンディングノートを作成し、PDFで公開しています。令和4年3月に作られたものが令和6年9月に内容と装丁を改訂され、現在は「資料編」「ノート編」「自筆証書遺言書様式」の3点がダウンロードできます。
特徴は、司法書士会が関わっているぶん相続・遺言・後見まわりの記載が手厚いことです。ノート編で情報を整理し、資料編で制度の解説を読み、必要なら自筆証書遺言書様式に進む、という流れが1つのセットで完結します。ダウンロードは自由ですが、利用は個人利用に限られ、内容を変更・改変しての使用は控えるよう案内されています。入手先は大阪法務局のエンディングノート公開ページです。
大阪府外にお住まいでも使えますが、資料編の相談先は大阪司法書士会が中心です。相談まで進む段階になったら、お住まいの都道府県の司法書士会・弁護士会に問い合わせ先を置き換えてください。
自治体のWord版|他の地域の人でも書式として使える
岡山市はPDF(24.20MB)とWord(26.91MB)、静岡市はWord全ページ版とPDF(全ページ版と8セクションの個別版)を公開しています。横浜市青葉区版もパソコン入力に対応したWord版があります。
これらは本来その市の住民向けですが、書式そのものは終活の項目を網羅した汎用的なものです。手書きが負担な方、字を書くのが億劫になってきた方にとって、パソコンで入力できる形式は現実的な選択肢になります。文字サイズを大きくして印刷することもできます。
ただし、他地域の方が使う場合は「地域の相談窓口」「市の制度紹介」のページは自分の自治体の情報に置き換える必要があります。また、静岡市版のようにセクションごとに分かれたPDFがある場合は、必要な章だけ印刷すれば紙とインクの節約になります。
尾崎社会福祉協議会|著作権フリーで配布・改変の自由度が高い
大阪府阪南市の尾崎社会福祉協議会は、全20ページのエンディングノートをExcel版(1,022.78KB)とPDF版(1.37MB)で公開しています。2019年11月19日に開かれた相続と遺言についての講演会で、司法書士の青木文子氏の指導のもとに作られたものです。
このノートの大きな特徴は、「著作権フリーです。ご自由にお使いください」と明記されている点です。表紙のタイトルは自分で記入する形式になっており、ページはそれぞれ独立して使えるため、必要なページだけ抜き出して使う、集まりの資料として配る、といった使い方もできます。地域のサロンや老人会で終活の勉強会を開くときに使いやすい設計です。
注意点は、2019年作成のため、その後に整備されたデジタル資産関連の欄が手厚いとは限らないことです。ネット銀行・電子マネー・スマートフォンのIDなどは、余白か別紙に補って書き足しておくと安心です。
Microsoftの無料テンプレート|Wordで写真も入れられる
Microsoftが「楽しもう Office」で公開しているエンディングノートのテンプレートは、Word形式(195KB)でA4普通紙の設定です。費用は無料で、フォーマットに沿って入力できるほか、写真を挿入することもできます。
「万一のことがあったときに伝えておきたい情報や、遺された人にとって必要なことをまとめておく」という趣旨で作られており、公的機関版に比べると装いが柔らかいのが特徴です。自分の写真や家族写真を入れて、アルバムを兼ねた1冊にしたい方に向いています。
一方で、公的制度の解説は含まれていません。医療・介護・相続の希望を制度の説明とセットで確認しながら書きたい場合は、自治体版や大阪法務局版と併用する形が現実的です。
- ☑ 両面印刷ではなく片面印刷にする(あとで1ページだけ差し替えられる)
- ☐ 綴じずに穴を開けてバインダーに入れる(ページの追加・入れ替えが自由になる)
- ☐ 文字が小さいと感じたら拡大印刷の設定を確認する
- ☐ 全ページを一度に印刷せず、まず書く予定の章だけ出す
スマホアプリで書くという選択肢|無料で始められる終活アプリ
紙に書くのが億劫な方、書き直しが多くなりそうな方には、スマートフォンやパソコンで書けるアプリという方法もあります。無料で使えるものが複数あり、更新のしやすさでは紙を上回ります。
わが家ノート by MUFG|共有のタイミングまで決められる
三菱UFJ信託銀行が提供する終活アプリ「わが家ノート by MUFG」は、公式サイトに「無料 永年無料」と明記されています。エンディングノートの作成に加え、4項目の健康管理、家族・親族への情報共有機能を備えており、iOS(App Store)とAndroid(Google Play)の両方で配信されています。
特徴的なのは、記録した情報を「誰に」「いつ」共有するかを選べる点です。すぐに共有する情報、認知機能の低下が診断されたあとに共有する情報、亡くなったあとに共有する情報、というように段階を分けられます。紙のノートでは「見せるか、しまっておくか」の二択になりがちな部分を、細かく設計できるのがデジタルの強みです。
注意点として、利用にはログインの手続きが必要です。家族と共有する設定にしていても、ご本人しか知らないログイン情報のまま急に体調を崩すと、家族がたどり着けません。誰か1人には「このアプリを使っている」という事実だけでも伝えておくことが前提になります。
みんなのエンディングノート|項目を飛ばしながら書ける
株式会社パラダイスファクトリーが提供する「みんなのエンディングノート」は、お墓・葬儀・介護・相続など終活に関する希望や情報を記入して保存できる無料アプリです。パソコンからの入力にも対応しています。
設計上の利点は、どの項目からでも書き込めて、分からない項目は飛ばして先に進める点です。入力内容は自動保存されるため、「保存を押し忘れて消えた」という事故が起きにくくなっています。細切れの時間に少しずつ埋めていくスタイルに向いています。
アプリの機能や提供条件は更新されることがあるため、ダウンロード前にアプリストアの説明と公式サイトで最新の内容をご確認ください。
紙とアプリ、どちらが自分に向く?
どちらが優れているという話ではなく、生活スタイルで向き不向きが分かれます。判断材料として、主な違いを整理しました。
| 紙のノートが向く人 | アプリが向く人 |
|---|---|
| スマートフォンの操作に不安がある 家族がすぐ見つけられる形にしたい 手書きの文字で思いを残したい 停電・故障の影響を受けたくない | 住所や連絡先の書き直しが多い 離れて暮らす家族と共有したい 文字を書くのが負担になってきた 写真やデータもまとめて残したい |
失敗パターン|アプリで書いたのに家族が誰も開けない
アプリで丁寧に書き込んだのに、いざというときに家族が中身を見られなかった、という事態は実際に起こります。ログイン用のIDとパスワードを本人しか知らず、スマートフォンの画面ロックも解除できないためです。
原因は、デジタルの利点である「他人に見られない安全性」が、そのまま「家族も見られない」というリスクに転じる点にあります。対策は2つです。1つは、アプリの共有機能を必ず設定して、家族のうち1人を共有先に登録しておくこと。もう1つは、紙を1枚だけ用意して「エンディングノートは○○というアプリに入れてある」「スマートフォンのロック解除方法は△△に保管」とだけ書き、健康保険証や通帳と一緒にしまっておくことです。デジタル情報の在りかを示す紙の道しるべが1枚あるだけで、家族の負担は大きく変わります。
無料版と市販の有料ノート、実際どこが違うのか
「無料で足りるなら、なぜ書店で2,000円以上のノートが売れているのか」という疑問はもっともです。ここでは価格と中身を具体的に比べて、どちらを選ぶべきかを整理します。
価格と仕様の比較|高齢者あんしんノート調べ
2026年8月時点で確認できた、代表的な無料版と市販品の仕様を並べました。
| 名称 | 価格 | 分量・形式 |
|---|---|---|
| 横浜市青葉区版「わたしノート」 | 無料 | 本文18頁/紙・Word |
| 尾崎社会福祉協議会版 | 無料(著作権フリー) | 全20ページ/PDF・Excel |
| 大阪法務局×大阪司法書士会版 | 無料(個人利用限定) | 資料編・ノート編・遺言書様式の3点/PDF |
| Microsoft無料テンプレート | 無料 | A4設定/Word(195KB) |
| わが家ノート by MUFG | 無料(永年無料と明記) | アプリ/iOS・Android |
| コクヨ もしもの時に役立つノート | 2,475円(税込・公式ショップ) | 32枚/セミB5・かがりとじ・ディスクケース付き |
比べて分かるのは、記入項目の幅では無料版と市販品に決定的な差がないということです。差が出るのは「モノとしての作り」です。コクヨの製品は上質紙と帳簿用紙の特厚口を使い、かがりとじで製本され、オレフィンカバーが付いています。長期保存を前提に設計されているぶん、印刷した紙束との違いが出ます。
有料の市販ノートが向くのはこんな人
市販品を選ぶ価値があるのは、第一に「書いたものを10年、20年単位で保管したい」方です。家庭用プリンターで印刷した用紙は、日光や湿気で数年経つと文字が薄くなることがあります。製本された市販ノートはその点で有利です。
第二に、パソコンやプリンターが自宅にない方です。ダウンロード版は無料でも、印刷をコンビニに頼めば1枚あたりの費用がかかり、20ページ以上あるノートでは合計額が市販品に近づくこともあります。手間と時間を考えると、書店で1冊買うほうが早い場合があります。
第三に、CDやUSBメモリなどのデータを一緒に保管したい方です。コクヨの製品にはディスク1枚を収められるケースが付いています。写真データや家系の記録をまとめて1か所に置いておきたい場合には、この構造が役に立ちます。
無料版で十分な人|まず「書き切る」ことが目的なら
逆に、無料版で始めるべきなのは「まだ何を書くか決まっていない」段階の方です。エンディングノートは、書き始めてみて初めて「うちの場合はここが問題だ」と分かることが多く、1冊目は下書きになりがちです。下書きに2,475円をかける必要はありません。
また、家族と一緒に書き進めたい場合も無料版が有利です。ダウンロード版なら人数分を印刷でき、夫婦それぞれが1冊ずつ持つことも、親子で同じ書式を使って書き比べることもできます。自治体窓口でもらう場合も、多くは1人1冊で無料です。
注意点は、無料版だからと何冊も並行して書き始めないことです。書きかけのノートが3冊できると、どれが最新か家族には判別できません。使う1冊を決め、それ以外は処分するか「下書き」と大きく書いておきましょう。
実は「1冊で完成させない」ほうが続く
意外と知られていませんが、エンディングノートが続かない最大の理由は「1冊を完璧に埋めようとすること」にあります。ハルメク 生きかた上手研究所が2025年2月14日〜17日に全国の男女50〜79歳2,016名へ実施した調査では、終活を「すでに始めている」人は44.0%にのぼる一方、「終活」として「エンディングノートの記入」を挙げた人は26.7%にとどまりました。始めている人の中でも、ノートを書くところまで進んでいる人は多数派ではないということです。
終活を「すでに始めている」人は44.0%。一方、「終活」として「エンディングノートの記入」を挙げた人は26.7%。同調査では、終活を始めている層の幸福度は平均6.48点で、全体平均6.03点を上回った(出典:ハルメク 生きかた上手研究所「終活に関する意識・実態調査2025」2025年2月14日〜17日実施、全国の男女50〜79歳2,016名)。
そこで提案したいのが、無料版を「章ごとの使い捨て」として使う方法です。今月は緊急連絡先のページだけ、来月は医療の希望のページだけ、と1章ずつ印刷して埋め、バインダーに綴じていきます。1冊を前にすると重く感じる作業も、2ページなら30分で終わります。無料でダウンロードできるからこそできる進め方です。
書く順番で迷わない|最初に埋めるべき項目と後回しでいい項目
ノートが手に入ったら、次は何から書くかです。最初のページから順に埋める必要はありません。家族が本当に困る順に書いていくのが、実用面でも精神面でも続けやすい方法です。
50代から準備を始める場合の全体像は、こちらの記事で詳しく解説しています。

「終活なんて、まだ先の話」——そう思っていたのに、親の入院や友人の訃報をきっかけに、ふと自分の老後や最期が気になり始めた。50代はそんな心境の変化が訪れる年代で…
最優先は緊急連絡先|家族が最初に必要とする1ページ
まず埋めるべきは緊急連絡先のページです。静岡市版で「(8)緊急連絡先一覧」、新宿区版で友人・知人の連絡先として設けられている項目にあたります。
理由は明確で、倒れた直後に家族が必要とするのがこの情報だからです。かかりつけ医、服用中の薬、健康保険証や介護保険証の保管場所、親戚や友人の連絡先。これらは入院手続きの当日に求められます。一方、葬儀の希望やお墓の話は、数日から数週間の猶予があります。
書き方のコツは、電話番号だけでなく「その人と自分の関係」を添えることです。「山田花子 090-××××-×××× 中学校の同級生・同窓会の連絡係」と書いておけば、家族が知らせるべき範囲を判断できます。番号だけが並んでいると、家族は誰に何を伝えていいか分からず、結局連絡できないまま終わります。
医療・介護の希望|厚生労働省の「人生会議」資材が助けになる
次に書きたいのが医療・介護の希望です。ここは自分ひとりで考え込むと手が止まりやすい項目でもあります。
そんなときに使えるのが、厚生労働省が公開している「人生会議」(アドバンス・ケア・プランニング)の普及啓発資材です。ポータルサイトのほか、令和6年度資材としてポスター、資材活用ガイド、普及・啓発リーフレット(PDF)が公開され、学習サイト「ゼロからはじめる人生会議」、令和4年度作成のアニメーション2本と令和3年度作成の再現VTR3本がYouTubeで公開されています。自治体や各種機関での普及・啓発への活用が想定されており、個人が読んで考えるための材料としても使えます。詳しくは厚生労働省の人生会議に関するページをご覧ください。
注意点として、医療の希望は「絶対にこうしてほしい」と書き切らなくて構いません。状況によって最善は変わりますし、判断を任される家族の負担も考える必要があります。「痛みは我慢したくない」「できるだけ自宅で過ごしたい」といった価値観のレベルで書いておくほうが、実際の場面では役に立ちます。
お金の情報は「金額」ではなく「在りか」を書く
財産の欄は、多くの方が手を止める場所です。ここでの原則は、残高や金額そのものではなく「どこにあるか」を書くことです。
金融機関名と支店名、証券会社名、加入している保険会社名、貸金庫の有無。この4点が分かれば、家族は手続きを進められます。残高は日々変わるうえ、金額を書いたノートは盗み見られたときの危険が大きくなります。新宿区版がデジタル資産の運用を踏まえて改訂されたように、近年はネット銀行・ネット証券・電子マネー・スマートフォンの決済アプリの記載欄も重要になっています。
やりがちな失敗は、暗証番号やパスワードそのものをノートに書き込んでしまうことです。ノートは金庫ではありません。パスワードは書かず、「パスワードの一覧は△△に保管」と場所だけを記す、あるいは家族の1人にだけ口頭で伝える形にしてください。
家族へのメッセージは最後でいい
多くのエンディングノートには「大切な人へのメッセージ」の欄があります。静岡市版では(4)、横浜市青葉区版では「もしもノート」の末尾に置かれています。
この欄は最後に回して構いません。むしろ、事務的な情報を書き終えたあとのほうが書きやすくなります。連絡先や保険の欄を埋める作業を通じて、自分の暮らしを支えてくれた人の顔が自然に浮かんでくるからです。
メッセージ欄が埋まらないときは、宛名を1人に絞ってみてください。「家族へ」だと抽象的になりますが、「長男へ」「妹へ」と決めると、伝えたいことが具体的に出てきます。全員分を一度に書く必要はなく、1年に1人ずつ書き足していく形でも十分です。日付を添えておくと、あとで読む家族にとって手紙としての価値が増します。
書いたあとが本番|保管場所と、遺言書との使い分け
エンディングノートは、書き終えた時点ではまだ半分です。家族に見つけてもらえて、内容が最新に保たれていて、はじめて役に立ちます。
保管場所は「家族が探せる場所」一択
もっとも多い失敗が、大切にしまい込んで誰にも見つけてもらえないことです。金庫の奥、仏壇の引き出し、タンスの最下段。本人にとっては当然の場所でも、家族には分かりません。
対策は、保管場所を家族に口頭で伝えておくことです。それが気恥ずかしければ、健康保険証・お薬手帳・通帳といった「家族が必ず探す物」と同じ場所に置いてください。あるいは、冷蔵庫の扉に「エンディングノートは寝室の書棚の右端」とだけ書いた紙を貼っておく方法もあります。救急隊が情報を探す場所として冷蔵庫を活用する取り組みは、多くの自治体で行われています。
注意したいのは、内容によっては家族に見られたくない部分があることです。その場合、ノート本体は共有し、個人的な手紙だけを封筒に入れて同じ場所に置く、という分け方ができます。全部を隠すか全部を見せるかの二択にしないことが、現実的な落としどころです。
財産の分け方を確実にするなら遺言書|法務局の保管制度は3,900円
エンディングノートに法的効力はないため、財産の分け方を確実に実現したい部分がある場合は遺言書が必要になります。自分で書いた遺言書を法務局に預けられる「自筆証書遺言書保管制度」は令和2年(2020年)7月10日に始まり、手数料は以下の通りです。
遺言書の保管の申請:3,900円
遺言書の閲覧の請求(モニター):1,400円/(原本):1,700円
遺言書情報証明書の交付請求:1,400円
遺言書保管事実証明書の交付請求:800円
申請書等・撤回書等の閲覧の請求:1,700円
※保管の申請の撤回および変更の届出に手数料はかからない(出典:法務省「自筆証書遺言書保管制度の手数料一覧」)
制度の要件や書き方には細かな決まりがあります。ご自身のケースで何をどう書けばよいかは、最寄りの法務局や司法書士・弁護士などの専門家にご確認ください。エンディングノート側には「遺言書は法務局に預けてある」という事実だけを書いておくと、家族が確実にたどり着けます。
自治体の終活支援に登録しておく|横須賀市・世田谷区の例
ひとり暮らしの方や、頼れる家族が近くにいない方には、自治体の終活支援制度という選択肢があります。
横須賀市の「わたしの終活登録」は、市民が終活に関する情報を市にあらかじめ登録しておき、入院時や死亡時に病院・警察・消防・福祉事務所や本人が指定した人からの照会に対して市が登録内容を回答する仕組みで、全市民が対象です。同市の「エンディングプラン・サポート事業」は、ひとり暮らしで身寄りがなく、月収18万円以下、預貯金等250万円以下、固定資産評価額500万円以下の不動産しか持たない高齢者等を対象に、相談支援、協力葬儀社との支援プラン策定・保管(リビングウィルの保管を含む)、安否確認訪問と入院・死亡時の関係機関への連絡調整を行っています。
世田谷区は令和8年(2026年)7月1日に「世田谷区終活支援センター」を開設しました。月曜〜金曜(土日祝・年末年始を除く)の午前8時30分〜午後5時15分に、終活全般の総合相談、遺言・相続の法律相談を無料で受け付け、「私のエンディングノート」の無料配布と講座開催も行っています。電話番号は03-6411-3715です。制度の名称や対象条件は自治体ごとに異なるため、お住まいの市区町村の高齢福祉窓口にご確認ください。
年1回、更新する日を決めておく
書いた内容は必ず古くなります。かかりつけ医が変わる、契約している保険が変わる、孫が生まれる。1年経てば、どこかは書き換えが必要になっています。
おすすめは、更新日を年中行事に紐づけることです。誕生日、正月、免許更新の年、確定申告の時期など、毎年必ず意識する日に合わせると忘れません。作業自体は30分もかかりません。連絡先のページと財産の在りかのページを見返し、変わったところに二重線を引いて書き直すだけです。
更新のときに「もう不要になった書類」も一緒に見えてきます。使っていない口座、期限切れの保証書、読まなくなった本。片付けとエンディングノートを同じ日にセットで進めると、家の中と情報の両方が整理されていきます。

「実家に帰るたび、物が増えている気がする」「親の家をどう片付けたらいいのか、考えるだけで気が重い」——そんなふうに感じている方は、決してあなただけではありません…
まとめ|無料のエンディングノートで、今日1ページだけ書いてみる
エンディングノートは、お金をかけなくても始められます。お住まいの市区町村の高齢福祉課や地域包括支援センターに行けば無料でもらえることが多く、その場で受け取れなくても、大阪法務局と大阪司法書士会が共同作成したPDF、尾崎社会福祉協議会の著作権フリー版、MicrosoftのWordテンプレートなら今夜のうちに印刷できます。スマートフォンで書きたい方には、永年無料と明記された「わが家ノート by MUFG」のようなアプリもあります。
大切なのは、どれを選ぶかよりも「1ページ書いてみる」ことです。ハルメクの調査では終活を始めている人が44.0%いる一方、エンディングノートの記入まで進んでいる人はそれより少ないという結果でした。多くの人が、入り口で止まっています。
最初の一歩は、緊急連絡先のページを1枚だけ印刷することです。かかりつけ医、飲んでいる薬、保険証の場所、知らせてほしい人の名前と関係。この4項目を埋めるだけで、家族がいちばん困る場面をひとつ減らせます。所要時間は30分ほどです。残りのページは、来月でも来年でも構いません。
書き終えたら、家族が探せる場所に置き、誕生日など毎年必ず思い出す日に見直す。それだけで、このノートは「いつか役に立つかもしれない紙」から「確実に家族を助ける1冊」に変わります。
なお、制度の内容・手数料・配布状況は改定されることがあります。この記事の情報は2026年8月時点のものです。ご自身のケースでの判断や手続きについては、お住まいの自治体の窓口、法務局、司法書士・弁護士などの専門家にご確認ください。

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