「子どもがいない私たち夫婦は、老後どうやって生きていけばいいんだろう」——50代後半から60代にさしかかると、ふとそんな不安が胸をよぎることはありませんか。子育てにお金がかからなかった分、貯蓄には少し余裕がある。けれど、いざ病気や介護になったとき、入院や施設の手続きで頼れる人がいない。最期の片づけは誰がしてくれるのか。子どもがいる家庭とは少し違う「子なし夫婦ならではの心配」が、年齢とともにじわじわと現実味を帯びてきます。
結論から言えば、子なし夫婦の老後は「お金の準備」と同じくらい「人と仕組みの準備」が大切です。お金は計画的に貯めれば見通しが立ちますが、判断力が落ちたとき、入院の保証人が必要なとき、亡くなった後の手続きは、自分ひとりでは完結しません。逆に言えば、元気なうちに少しずつ手を打っておけば、子どもがいなくても穏やかに歳を重ねていくことは十分に可能です。
この記事では、夫婦2人の老後にかかるお金の目安から、介護・身元保証・任意後見・相続・死後の手続きまで、子なし夫婦が後悔しないための備えを、公的機関のデータを確認しながら一つずつ整理しました。お茶でも飲みながら、ご夫婦で「うちはどうしようか」と話すきっかけにしていただけたら嬉しいです。
・子なし夫婦の老後にかかるお金の目安(生活費・貯蓄)
・介護や入院で「身元保証人」が必要になったときの備え
・判断力が落ちる前にやっておきたい任意後見と相続の準備
・夫婦どちらかが残った「最後のひとり」のための終活
子なし夫婦の老後で本当に向き合うべき3つの不安とは

子なし夫婦の老後の不安は、漠然と「お金が足りるかな」というところで止まってしまいがちです。けれど中身を分解すると、本当に向き合うべきテーマは「お金」「介護」「最期の手続き」の3つに整理できます。ここを一つずつ言葉にしていくと、不安の輪郭がはっきりして、何から手をつければいいかが見えてきます。
不安の正体は「お金・介護・最期の手続き」の3つに分けられる
子なし夫婦が抱える不安は、突き詰めると3つです。1つ目は老後資金が足りるかというお金の問題、2つ目は介護が必要になったとき誰が支えてくれるのかという問題、3つ目は入院の保証人や亡くなった後の片づけといった「手続き」の問題です。お金は計画でなんとかなりますが、後の2つは「人」や「契約」がないと回りません。なぜ3つに分けるかというと、対策の方法がまったく違うからです。お金は貯蓄と年金、介護は公的保険と外部サービス、手続きは契約と書面で備えます。まずは「自分が一番ひっかかっているのはどれか」を夫婦で口に出してみると、優先順位が自然と決まります。逆に全部をまとめて考えようとすると、不安だけが大きくなって動けなくなりがちです。
子どものいない夫婦世帯は20%を超え、もう珍しくない
「うちだけが特殊なのでは」と感じる必要はありません。夫婦のみで暮らす子どものいない世帯は増加傾向にあり、全世帯に占める割合は20%を超えています。背景には、晩婚化や価値観の多様化、共働き世帯の増加など、社会全体の変化があります。かつては「子どもが老後の面倒を見る」のが当たり前とされた時代もありましたが、いまや子どもがいても遠方に住んでいて頼れない家庭は珍しくありません。つまり「子どもに頼らない老後」は、子なし夫婦に限らず多くの家庭の共通テーマになりつつあるのです。注意したいのは、世間の「平均」に自分を当てはめすぎないこと。世帯ごとに資産も健康も人間関係も違うので、まわりと比べて焦るより、自分たち夫婦の現状から逆算するほうが現実的です。
最大の課題は「いざというとき頼れる人がいない」こと
子なし夫婦の老後で一番のネックになるのは、お金そのものより「いざというときに動いてくれる人がいない」点です。入院時の身元保証、認知症になったときの財産管理、亡くなった後の葬儀や手続き——これらは本来、子どもや親族が担ってきた役割でした。子どもがいないと、その役割を自分たちで「仕組み」として用意しておく必要があります。具体的には、後述する任意後見契約や身元保証サービス、死後事務委任契約といった選択肢です。ここで大切なのは、夫婦どちらかが先に弱ったとき、もう一方が一人で全部背負えるとは限らないという視点。お互いを唯一の頼みの綱にするのではなく、外部の仕組みも組み合わせて「二重三重の備え」にしておくと安心です。
早めに動いた夫婦ほど穏やかに歳を重ねられる理由
備えは、元気で判断力があるうちでないと選べないものが多い、というのが大事なポイントです。たとえば任意後見契約は本人の判断能力がしっかりしているうちにしか結べませんし、遺言書も同じです。判断力が落ちてからでは「自分が選んだ人に託す」という選択肢そのものが消えてしまいます。早めに動いた夫婦ほど、選択肢が多く残っていて、結果的に穏やかに歳を重ねられます。とはいえ、一度に全部やろうとすると疲れてしまうもの。今年は生活費の見直し、来年は遺言、というように、年単位で一つずつ進めるくらいのペースで十分です。失敗しがちなのは「まだ元気だから」と先送りし続けて、結局何も準備できないまま体調を崩すパターン。小さな一歩でいいので、今日から始めるのが何よりの備えになります。
子どもがいなくても幸せに歳を重ねる工夫については、こちらの記事でも具体的にまとめています。

「子どもがいない私たち夫婦は、これから先、本当に幸せにやっていけるのだろうか」——50代後半から60代にさしかかると、ふとそんな思いがよぎる方は少なくありません…
| 備えの項目 | 費用の目安 |
|---|---|
| 夫婦2人の最低生活費 | 月 約23.9万円 |
| ゆとりある生活費 | 月 約39.1万円 |
| 身元保証サービス | 総額 100〜150万円 |
| 任意後見契約(公正証書) | 作成 約1.5万円〜+月額報酬 |
| 死後事務委任契約 | 10〜50万円程度 |
老後資金はいくら必要?夫婦2人の生活費とゆとりの差
まず気になるのは、やはりお金のことですよね。子なし夫婦は子育て費用がかからなかった分、同年代より貯蓄に余裕があるケースが多い一方、「介護を子どもに頼れない」という前提で、少し多めに備えておく考え方が現実的です。ここでは公的調査の数字をもとに、夫婦2人の老後にいくらかかるのかを見ていきます。
夫婦2人の最低生活費は月23.9万円、ゆとりだと39.1万円
夫婦2人が老後に必要と考える最低日常生活費は、月額平均23.9万円というデータがあります(生命保険文化センターの調査)。さらに、旅行や趣味、人付き合いなども含めた「ゆとりある老後生活費」は月額平均39.1万円。つまり最低限とゆとりの差は月15万円ほどあるわけです。この差をどう埋めるかが、老後の楽しみ方を左右します。子なし夫婦の場合、子や孫への支援に回すお金が少ない分、このゆとり部分を自分たちの旅行や趣味に使いやすいという利点もあります。ただし、あくまで全国平均なので、住む地域や持ち家かどうかで実際の必要額は大きく変わります。まずは「我が家の場合は毎月いくら使っているか」を1〜2か月記録してみると、平均値より自分たちの実額のほうがずっと役に立ちます。
最低日常生活費は月額平均23.9万円、ゆとりある生活費は月額平均39.1万円(出典:生命保険文化センター「生活保障に関する調査」)。差額の約15万円が、趣味や旅行などゆとりに回せる部分の目安です。
夫婦のみ世帯の貯蓄は平均2,021万円という調査も
貯蓄の面では、子なし夫婦は比較的余裕があるとされています。ある調査では、夫婦のみ世帯の金融資産保有額は平均2,021万円で、子どものいる世帯の1,540万円を約500万円上回っていました。子育てや教育費がかからなかった分が、貯蓄として残りやすいのが理由と考えられます。ただし、この「平均」には大きな貯蓄を持つ世帯が混じって数字を押し上げている面もあり、中央値で見るともっと低くなるのが一般的です。「平均2,000万円あるなら安心」と単純には言えません。大切なのは、自分たちの貯蓄額と毎月の支出、年金見込み額を並べて「何歳までもつか」を概算してみること。子なし夫婦は介護を外部サービスに頼る前提で、子どもがいる家庭より少し厚めにクッションを持っておくと安心です。
年金でどこまでまかなえる?国民年金と厚生年金の目安
老後の収入の柱はやはり年金です。2025年度時点で、国民年金(老齢基礎年金)の満額は月額68,000円、会社員だった夫婦のモデル世帯では厚生年金を含めて月額約230,000円が一つの目安とされています。先ほどの最低生活費23.9万円と並べると、厚生年金世帯なら年金でほぼ生活費をまかなえる計算ですが、ゆとり分は貯蓄から取り崩す必要があります。自営業などで国民年金が中心の場合は、年金だけでは不足しやすいため、より計画的な備えが欠かせません。なお年金額は毎年度改定されるため、最新の見込み額は日本年金機構の「ねんきんネット」やねんきん定期便で確認するのが確実です。受給開始を遅らせる「繰下げ」を使うと、1か月あたり0.7%、最大75歳まで遅らせれば84%増やせる仕組みもあります。夫婦のどちらか一方だけ繰下げるなど、組み合わせ方も検討の余地があります。
子なし夫婦は「資産を残す」より「使い切る」発想も
子どもがいる家庭は「いくら遺せるか」を意識しますが、子なし夫婦は発想を切り替えてもいいかもしれません。相続させたい相手が明確にいない場合、無理に資産を残すより、健康なうちに自分たちの人生を楽しむために使うという考え方です。もちろん、介護や医療に備えた一定のクッションは必要ですが、過度に倹約して旅行も趣味も我慢し、結局使わないまま——というのは少しもったいない気もします。一方で注意したいのは「使い切る」を意識しすぎて、想定より長生きしたときに資金が尽きるリスク。人生100年時代を前提に、90代半ばまでの生活費+介護費を確保したうえで、残りを楽しみに回すくらいのバランスが現実的です。立場としては、夫婦で「いくらまでは安心枠、いくらからは楽しみ枠」と線引きしておくと、お金を使うときの罪悪感も減ります。
お金だけでなく健康や孤独も含めた老後の不安全般については、こちらの記事で対処法を整理しています。

「このまま暮らしていけるだろうか」「年金だけで足りるのだろうか」――ふとした瞬間に胸をよぎる老後への不安は、年齢を重ねるほど輪郭がはっきりしてきます。生命保険文…
介護が必要になったら誰が支える?子なし夫婦の現実的な備え

お金の次に大きいのが介護の問題です。子どもがいれば、いざというとき手続きや付き添いを頼める場面もありますが、子なし夫婦はそこを自分たちと外部サービスで組み立てる必要があります。とはいえ、公的な介護保険という土台があるので、仕組みを知っておけば過度に怖がる必要はありません。
まず知っておきたい公的介護保険の自己負担と保険料
介護が必要になったときの土台は、公的介護保険です。40歳以上が保険料を払い、原則65歳以上で要介護認定を受けるとサービスを利用できます。利用時の自己負担は所得に応じて1割が基本で、一定以上の所得がある人は2割、高所得者は3割です。65歳以上が払う介護保険料は、全国平均で月額約6,014円(第9期・2024〜2026年度)が目安とされています。子なし夫婦にとって心強いのは、ケアマネジャーが介護プランを作り、ヘルパーやデイサービスなど外部の手を組み合わせてくれること。「家族が全部世話をする」のではなく「プロのチームで支える」のが今の介護の基本形です。注意点として、保険料も自己負担割合も住む自治体や所得で変わるため、具体的な金額はお住まいの市区町村の窓口や地域包括支援センターで確認しておくと安心です。
子なし夫婦が陥りやすい「老老介護で共倒れ」の落とし穴
子なし夫婦の介護で最も避けたいのが、夫婦だけで抱え込む「老老介護の共倒れ」です。たとえば夫が要介護になり、妻が一人で介護を担い続けた結果、妻まで体調を崩して二人とも倒れてしまう——こうしたケースは決して珍しくありません。原因は「家族のことは家族で」という思いから、外部サービスの利用をためらってしまう点にあります。対策はシンプルで、要介護認定を早めに受け、デイサービスやショートステイ、訪問介護を遠慮なく使うこと。介護する側が休む「レスパイト」を意識的に確保することが、結果的に二人を守ります。元気なうちから地域包括支援センターの場所を確認し、一度相談に行っておくだけでも、いざというときの動きがまったく変わります。子どもがいない分、「頼れる窓口」を先に押さえておくことが何よりの保険になります。
「夫婦のことは夫婦で」と外部サービスを我慢すると、介護する側まで倒れる老老介護の共倒れにつながります。要介護認定は早めに受け、デイサービスやショートステイを遠慮なく使いましょう。
施設に入る場合の費用は月5万〜30万円が目安
在宅介護が難しくなったときは施設という選択肢があります。費用の目安は、特別養護老人ホーム(特養)で月5〜15万円、民間の有料老人ホームで月15〜30万円ほど(居住費・食費を含む)とされ、施設のタイプや地域、所得によって大きく幅があります。特養は費用が抑えられる一方、入居希望者が多く待機が必要な場合があります。子なし夫婦の場合、夫婦同時に施設を検討する局面も出てくるため、早めに地域の施設情報を集め、見学しておくと選択肢が広がります。注意したいのは、施設入居時にほぼ必ず「身元保証人」を求められること。子どもがいないと、ここでつまずきやすいので、次の章で扱う身元保証の備えとセットで考えておく必要があります。費用面でも、所得が低い場合は居住費・食費が軽減される制度があるので、施設や自治体に確認してみてください。
住まいをどうする?持ち家・賃貸・サ高住の考え方
介護を見据えると、住まいの選択も大きなテーマです。持ち家ならバリアフリー改修で長く住み続ける道があり、介護保険の住宅改修費補助(上限20万円・原則1割負担)も使えます。賃貸の場合は、高齢になると新たに借りにくくなる懸念があるため、早めにサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)など、見守りや安否確認のついた住まいを検討する手もあります。子なし夫婦は「最後にどこで暮らすか」を子どもに相談できない分、自分たちで早めに方針を決めておくことが大切です。逆に言えば、誰かの都合に縛られず、夫婦の希望だけで住み替えを決められる自由さもあります。注意点は、住み替えには体力もお金もかかるので、70代後半より前に動くほうが負担が軽いこと。「元気なうちに、住みやすい場所へ」を合言葉にすると、判断のタイミングを逃しにくくなります。
入院・施設入居で必ず聞かれる「身元保証人」問題
子なし夫婦が現実にぶつかりやすいのが、入院や施設入居のときに求められる「身元保証人」です。これまで子どもや親族が担ってきた役割を、どう用意するか。ここを知らないと、いざというとき入院や入居の手続きで立ち往生してしまいます。選択肢を整理しておきましょう。
そもそも身元保証人は何のために必要なのか
入院や施設入居の際に身元保証人が求められるのは、主に「緊急時の連絡先」「治療方針の同意」「費用の支払い保証」「亡くなった後の引き取り」といった役割を担ってもらうためです。夫婦どちらかが元気なうちは配偶者が務められますが、二人とも高齢になったり、片方が先に亡くなったりすると、誰に頼めばよいかが切実な問題になります。子なし夫婦にとっては、ここが「子どもがいないことを最も実感する場面」かもしれません。まず知っておきたいのは、保証人がいないことを理由に病院や施設が入院・入居を断ることは、本来望ましくないとされている点です。とはいえ実務上は求められることがほとんどなので、誰に頼むか・どう代替するかを前もって考えておくと、慌てずに済みます。配偶者以外の選択肢として、兄弟姉妹や甥姪、そして次に紹介する身元保証会社があります。
身元保証サービスの費用相場は総額100〜150万円
頼れる親族がいない場合の選択肢が、民間の身元保証サービスです。費用相場は、老人ホーム入居などで利用する場合で総額100〜150万円が一般的とされ、国民生活センターの報告では契約購入金額の平均は147万円でした。身元保証だけでなく、入院時の対応や日常の見守り、死後の事務手続きまでをパッケージにしたプランが多く、内容によって金額は変わります。身元保証単独であれば50万円程度の例もあります。決して安くはありませんが、子なし夫婦にとっては「いざというときに動いてくれる人がいる」という安心料と考えることもできます。利用を検討する際は、入会金・保証料・預託金の内訳、解約時の返金条件、預けたお金の管理方法を必ず書面で確認しましょう。複数の事業者を比較し、契約を急がせる業者は避けるのが鉄則です。
身元保証サービスは法令による監督制度が十分に整っておらず、国民生活センターにも「契約内容が複雑」「解約時に返金されない」といった相談が寄せられています。預託金の管理方法・返金条件を書面で確認し、その場で契約せず家族や専門家に相談してから決めましょう。
兄弟姉妹や甥・姪に頼むときの伝え方と感謝の形
身元保証を親族に頼める場合は、それも一つの方法です。ただし、子なし夫婦の親族は兄弟姉妹やその子(甥・姪)であることが多く、彼らにも自分たちの生活があります。頼むときは「もしものとき連絡先になってほしい」と具体的な役割を伝え、相手の負担を軽くする配慮が欠かせません。たとえば、費用の支払いは自分たちの口座や保険で完結するよう準備しておく、エンディングノートに希望を書いておく、といった工夫です。お願いしっぱなしにせず、日頃から連絡を取り合い、感謝を形で示しておくことが、いざというときに快く動いてもらえる関係につながります。注意したいのは、口約束だけにしないこと。誰に何を頼んだかを書面やエンディングノートに残し、関係する親族にも共有しておくと、後々の混乱や行き違いを防げます。
立場別に考える「誰に何を頼むか」の整理術
身元保証や緊急連絡の役割は、一人に全部を背負わせる必要はありません。たとえば「緊急連絡は近所の親しい友人、費用の管理は身元保証会社、財産の管理は任意後見人」というように、役割ごとに分担すると一人あたりの負担が軽くなります。子なし夫婦の場合、配偶者が元気なうちは配偶者が中心になりますが、「配偶者が先に弱ったらどうするか」まで決めておくのがポイントです。状況別に言えば、近くに頼れる親族がいる人は親族+公的窓口、親族が遠方・疎遠な人は民間サービス+友人ネットワーク、という組み合わせが現実的でしょう。大切なのは、元気なうちに「誰に・何を・どう頼むか」を紙に書き出して見える化すること。頭の中だけで考えていると、いざというとき自分でも分からなくなってしまいます。
判断力が落ちる前に|任意後見と財産管理の準備
もし認知症などで判断力が落ちたら、銀行手続きや契約は自分ではできなくなります。子どもがいれば代わりに動いてもらえる場面でも、子なし夫婦はそこを「契約」で備えておく必要があります。その中心になるのが任意後見制度です。少し難しく聞こえますが、要点だけ押さえれば怖くありません。
任意後見契約とは「自分が選んだ人に託す」仕組み
任意後見制度とは、判断能力がしっかりしているうちに、将来認知症などになった場合に備えて、自分が信頼する人(任意後見人)と「こういうことを代わりにしてほしい」とあらかじめ契約しておく制度です。厚生労働省の説明でも「ひとりで決められるうちに、あらかじめご本人自らが選んだ人に、代わりにしてもらいたいことを契約で決めておく制度」とされています。契約は公正証書で結ぶことが必須です。実際に判断能力が低下したときに、家庭裁判所へ任意後見監督人の選任を申し立て、選任されると契約の効力が生じて後見人が動き始めます。子なし夫婦にとっての最大のメリットは、「誰に託すか」を自分で選べること。配偶者、信頼できる甥姪、あるいは司法書士や弁護士などの専門職を指定できます。家族に頼れる人が少ない分、この「自分で選べる」点は大きな安心材料になります。
気になる費用は?公正証書作成は約1.5万円から
費用は意外と手の届く範囲から始められます。任意後見契約の公正証書を作る際の費用は、公証役場の基本手数料11,000円、登記嘱託手数料1,400円、登記印紙代2,600円が基本です。実際に後見が始まる段階で家庭裁判所へ任意後見監督人の選任を申し立てる際は、収入印紙800円、登記印紙1,400円、郵便切手代などがかかります。これに加えて、専門職に後見人や契約サポートを依頼する場合は、別途報酬が発生します。専門職が後見人になる場合の報酬は月数千円〜数万円が目安で、財産額によって変わります。長期にわたれば総額はそれなりになりますが、「判断力が落ちた後に自分の財産を守ってもらえる」ことを考えれば、検討する価値は十分にあります。具体的な費用は依頼先によって幅があるため、複数の専門家に見積もりを取って比較するのがおすすめです。
法定後見との違いを知っておくと選びやすい
後見制度には「任意後見」と「法定後見」の2種類があります。違いはシンプルで、任意後見は判断能力があるうちに自分で後見人を選んで契約しておくもの、法定後見は判断能力が既に低下した後に家庭裁判所が後見人を決めるものです。つまり、自分で「この人に」と選びたいなら任意後見、準備が間に合わず判断力が落ちてしまった後の手段が法定後見、という関係です。子なし夫婦に特に意識してほしいのは、任意後見は「元気なうち」しか選べないということ。タイミングを逃すと、自分の希望と関係なく裁判所が選んだ後見人に委ねることになります。なお、後見制度は財産を「守る」ための仕組みで、積極的な資産運用や生前贈与には制限がある点も知っておきましょう。どちらが合うかは状況次第なので、迷ったら司法書士や弁護士、自治体の相談窓口に聞いてみてください。
意外と知られていませんが、任意後見も遺言も「判断能力があるうち」しか手続きできません。「まだ元気だから先でいい」と先送りした人ほど、いざ必要になったときには選択肢を失っています。元気な今こそが、唯一の準備のチャンスだと考えておきましょう。
子なし夫婦の老後で揉めない相続|カギは兄弟姉妹と遺言書
「子どもがいないから相続は関係ない」と思われがちですが、実は子なし夫婦こそ相続の備えが重要です。なぜなら、何も準備しないと配偶者が思わぬ形で困ることがあるからです。国税庁の情報をもとに、子なし夫婦の相続の仕組みと、揉めないための準備を見ていきましょう。
子がいないと配偶者と「兄弟姉妹」が相続人になる
相続には順位があります。第1順位は子(直系卑属)、第2順位は親など直系尊属、第3順位は兄弟姉妹です。子なし夫婦で、親もすでに亡くなっている場合、相続人は「配偶者と亡くなった人の兄弟姉妹」になります。このとき法定相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が全員で4分の1です(国税庁による)。ここで多くの人が驚くのは、「配偶者が全部相続できるわけではない」という点。長年連れ添った配偶者に全財産を遺したいと思っても、遺言がなければ、ほとんど交流のない義理の兄弟姉妹にも権利が発生するのです。兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合は、その子(甥・姪)が代わりに相続人になる「代襲相続」も起こります。子なし夫婦こそ、この仕組みを早めに知っておくことが、残された配偶者を守る第一歩になります。
遺言書がないと配偶者が住む家を失うことも
遺言書を用意しておくことの重要性は、子なし夫婦では特に大きくなります。たとえば財産の大半が「夫婦で住んでいる自宅」だった場合、遺言がないと、兄弟姉妹の相続分を支払うために自宅を売らざるを得なくなるケースも考えられます。残された配偶者が住む家を失う——これは絶対に避けたい事態です。対策は、「全財産を配偶者に相続させる」という内容の遺言書を作っておくこと。公正証書遺言にしておけば、形式の不備で無効になる心配も少なく、より確実です。後述するように、兄弟姉妹には遺留分がないため、遺言で配偶者に全財産を遺す指定が有効に働きます。具体的な書き方や税金面は家庭ごとに事情が異なるので、最終的には公証役場や専門家に相談しながら進めると安心です。
子なし夫婦で親も亡くなっている場合、相続人は配偶者と兄弟姉妹で、法定相続分は配偶者3/4・兄弟姉妹1/4。配偶者に全財産を遺したいなら、遺言書(できれば公正証書遺言)の準備が欠かせません。
兄弟姉妹には「遺留分」がないという大切な事実
ここで知っておきたいのが、兄弟姉妹には「遺留分」がないという事実です。遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された最低限の取り分のことで、子や配偶者、親には認められています。しかし兄弟姉妹にはこれがありません。つまり、「全財産を配偶者に相続させる」と遺言書に書いておけば、兄弟姉妹はそれに対して遺留分を主張できず、配偶者がすべてを受け取れるのです。これは子なし夫婦にとって非常に心強いポイントです。逆に言えば、遺言書さえあれば相続トラブルの多くは防げるということ。「うちは仲がいいから大丈夫」と思っていても、相続が絡むと関係が変わることは珍しくありません。遺言書という1枚の書面が、残された配偶者を守る最大の盾になります。なお相続税や手続きの細部は専門的になるため、税理士など専門家への確認をおすすめします。
立場・状況別に見る相続準備の進め方
相続の準備は、夫婦の状況によって優先度が変わります。持ち家があり財産の大半が不動産という夫婦は、配偶者が家を失わないよう遺言書を最優先に。預貯金中心で財産がシンプルな夫婦も、義理の兄弟姉妹との関係が薄いなら、やはり遺言で配偶者にまとめる指定をしておくと安心です。夫婦双方が亡くなった後、財産を誰に・どう遺すか(寄付や甥姪への遺贈など)を考えたい人は、「予備的遺言」で次の承継先まで指定しておく方法もあります。立場別に言えば、まずは夫婦それぞれが自分の遺言を作ること。どちらが先に亡くなるか分からない以上、片方だけでは備えとして不十分です。準備の第一歩として、財産の一覧(預貯金・不動産・保険など)を書き出すところから始めると、何を誰に遺したいかが見えてきます。
最期まで自分らしく|死後事務委任とおひとりさま終活
子なし夫婦の備えで見落とされがちなのが、「亡くなった後」のことです。葬儀、納骨、役所の手続き、契約の解約——これらは誰かが動かないと進みません。子どもがいない場合、ここを生前に仕組み化しておくと、残された配偶者や、最後に一人になったときの安心につながります。
死後事務委任契約で葬儀や手続きを託せる
死後事務委任契約とは、自分が亡くなった後に発生する各種手続きを、生前に第三者へ委任しておく契約です。具体的には、遺体の引き取り、葬儀・火葬・納骨の手配、役所への届け出、公共料金やサブスクの解約、賃貸住宅の片づけといった事務を任せられます。子なし夫婦で、特に「最後に一人になったとき」に、これらを誰が担うのかは切実な問題です。死後事務委任契約を結んでおけば、信頼できる相手や専門家、民間サービスに、自分の希望どおりの最期を託せます。遺言が「財産を誰に渡すか」を決めるものなのに対し、死後事務委任は「手続きを誰にやってもらうか」を決めるもので、役割が異なります。両方をセットで準備しておくと、財産も手続きも漏れなくカバーできます。
費用は10万〜50万円が目安、内容をよく確認して
死後事務委任契約の費用は、実費を除いて10万〜50万円程度が一つの目安です。これに葬儀費用や納骨費用などの実費が別途かかります。契約書を効力の確実な公正証書で作る場合は、公証人への手数料(11,000円ほか)が加わります。民間の事業者では、死後事務だけでなく、入院時の身元保証や日常の見守りサービスまでをまとめた「おひとりさま向けプラン」を用意していることもあります。費用を確認する際は、預託金として先に預けるお金がいくらで、どう管理されるのか、使われなかった場合に返金されるのかを、必ず書面でチェックしましょう。身元保証サービスと同様、契約内容が複雑になりがちなので、急がず、複数のサービスを比較して納得してから契約することが大切です。
- Step1: 財産・契約・希望をエンディングノートに書き出す
- Step2: 配偶者に全財産を遺す遺言書(公正証書)を作る
- Step3: 任意後見・身元保証・死後事務委任を必要に応じて契約する
夫婦どちらかが残る「最後のひとり」への備え
子なし夫婦の終活で最も大切なのが、「夫婦どちらかが必ず先に逝く」という現実への備えです。残された一人は、配偶者という最大の支えを失った状態で、自分の介護や最期に向き合うことになります。だからこそ、二人とも元気なうちに、「一人になったときどうするか」を話し合っておくことが欠かせません。身元保証や死後事務委任は、最後の一人になったときにこそ真価を発揮します。注意したいのは、準備を「夫婦のうち片方任せ」にしないこと。お金や契約の管理を一方だけが把握していると、その人が先に亡くなったとき、残された側が何も分からず途方に暮れてしまいます。通帳のありか、契約しているサービス、希望する葬儀の形——こうした情報を二人で共有し、エンディングノートに残しておくことが、残された側への何よりの思いやりになります。
友人・地域とのつながりも立派な「老後の資産」
最後にお伝えしたいのは、お金や契約だけが備えではない、ということです。子なし夫婦にとって、友人や地域とのつながりは、いざというときに気づかってくれる存在であり、立派な「老後の資産」です。趣味のサークル、ご近所付き合い、ボランティア、昔からの友人——こうした緩やかなつながりが、孤立を防ぎ、日々の張り合いになります。子どもがいない分、「血縁以外の関係」を意識的に育てていくことが、心の安心につながります。実は、子どもがいる家庭でも晩年は友人関係が支えになることが多く、この点では子なし夫婦に不利はありません。注意点として、つながりは一朝一夕には作れないので、定年後に引きこもらず、元気なうちから少しずつ関係を広げておくこと。「困ったときはお互いさま」と言い合える相手が数人いるだけで、老後の景色はずいぶん明るくなります。
終活を体系的に学びたい方には、資格を通じて知識を整理する方法もあります。終活カウンセラーについてはこちらでまとめています。

「終活って気になるけれど、何から始めればいいのかわからない」「家族に迷惑をかけたくないから、自分で知識をつけておきたい」——そんな思いを持つ方が増えています。書…
まとめ|子なし夫婦の老後は「早めの仕組みづくり」で安心に変わる
子なし夫婦の老後は、お金の準備だけでなく、「人と仕組みの準備」がカギを握ります。子どもがいない分、入院の保証人、判断力が落ちたときの財産管理、亡くなった後の手続きを、自分たちで仕組みとして用意しておく必要があるからです。けれど、これらはすべて元気で判断力があるうちなら、自分の希望どおりに選んで備えられます。早めに動いた夫婦ほど選択肢が多く、穏やかに歳を重ねていけます。むしろ「子どもに気を遣わず、夫婦の希望だけで決められる」という自由さは、子なし夫婦ならではの強みでもあります。
今日から始められる備えのポイントを整理しておきます。
- ☑ 毎月の生活費と貯蓄・年金見込みを把握した(最低23.9万円が目安)
- ☐ 介護は地域包括支援センターと外部サービスで支える体制を確認した
- ☐ 入院・入居の身元保証を誰に頼むか決めた
- ☐ 任意後見契約で財産管理を託す相手を考えた
- ☐ 配偶者に財産を遺す遺言書(公正証書)を準備した
- ☐ 死後事務委任とエンディングノートで最期の希望を残した
- ☐ 友人・地域とのつながりを意識的に育てている
最初の一歩としておすすめなのは、夫婦でエンディングノートを1冊用意し、財産の一覧と「一人になったらどうしたいか」を書き出してみることです。完璧に埋める必要はありません。書きながら「ここは決まっていないね」と気づいた項目から、一つずつ手を打っていけば十分です。お金のこと、介護のこと、最期のこと——どれも一度にやろうとせず、年単位でゆっくり進めていきましょう。子どもがいてもいなくても、自分らしい老後を準備する権利は誰にでもあります。今日この記事を読んだことが、その小さな第一歩になればうれしいです。なお、相続・税金・後見などの具体的な手続きは個別の事情で大きく変わるため、最終的な判断は公証役場・自治体の相談窓口・司法書士・税理士などの専門家にご確認ください。

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