「そろそろ終活でも」と口にしてみたものの、では何から手をつければいいのか。ノートを1冊買ってはみたけれど、最初のページで手が止まったまま引き出しにしまってある——そんな話は、同世代の集まりでよく出てきます。
結論から書きます。終活とは、亡くなるための準備ではなく、残りの時間をどう過ごし、判断できなくなったあとを誰にどう託すかを、自分の頭がはっきりしているうちに決めて書き残しておくことです。財産の話は、その一部分にすぎません。むしろ最初にやるべきなのは、お金ではなく「本人にしか答えられないこと」の方です。
この記事では、終活という言葉の意味から、やること6つの優先順位、エンディングノートと遺言書の使い分け、そして遺言書の保管に3,900円、葬儀の平均が96.73万円といった実際の数字まで、公的機関の資料をもとに順番に整理します。読み終えたときに「明日この1つをやればいい」が決まっている状態を目指します。
・終活とは何をすることなのか、言葉の意味と3つの目的
・やること6つの優先順位と、1日30分で進める段取り
・エンディングノートと遺言書の役割の違いと、遺言書にかかる実費
・葬儀・お墓の最新の平均額と、判断力があるうちにしかできない手続き
終活とは何をすること?言葉の意味と本当の目的

「死ぬ準備」ではなく「これからの決め方」を決める作業
終活とは、人生の終わりに向けた準備活動を短くした言葉です。ただ、この言葉から多くの人が想像する「お墓と葬儀とお金の手配」は、実際には終活の後半部分にあたります。前半にあるのは、どこで暮らしたいか、誰にそばにいてほしいか、どんな医療を受けたいか、といった価値観の言語化です。
なぜ順番が大事かというと、後半の手配は極端に言えば家族や専門家でも代われるのに対し、前半は本人にしか答えが出せないからです。判断能力が落ちてしまえば、家族は「たぶんこうしてほしかったはず」と推測で決めるしかなくなります。その推測こそが、遺された人をいちばん長く苦しめます。
具体的には、延命治療をどこまで望むか、施設に入るとしたら費用の上限はいくらか、認知症になったときに預金の管理を誰に頼むか。この3つに答えが書いてあるだけで、家族が背負う判断の重さは大きく変わります。
注意したいのは、終活を「一度で完成させるもの」と考えないことです。健康状態も家族構成も変わります。書いたものは何度でも書き直してよく、むしろ数年ごとの更新を前提にしておく方が続きます。
なぜ今これほど語られるのか——世帯の形が変わった
終活が話題になり続けている背景には、家族の形の変化があります。内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上の人がいる世帯は2,695万1千世帯で、全世帯5,445万2千世帯の49.5%を占めます。日本の世帯のおよそ半分に高齢者がいる計算です。
さらに、65歳以上の人口に占める一人暮らしの割合は、昭和55年には男性4.3%・女性11.2%でしたが、令和2年には男性15.0%・女性22.1%まで上がりました。令和32年には男性26.1%・女性29.3%になると見込まれています。令和5年の時点で、夫婦のみの世帯と単独世帯がそれぞれ約3割を占めています。
かつては三世代同居が当たり前で、日々の会話の中で本人の希望が自然に共有されていました。今は、子が遠方にいる、あるいは子がいないという家庭が珍しくありません。だからこそ、口頭ではなく「書いて残す」必要が出てきたわけです。
ここで見落とされがちなのは、一人暮らしでなくても事情は同じだという点です。夫婦二人暮らしでも、どちらかが先に判断力を失えば、残った側が一人で決めることになります。同居家族がいるから安心、とは言い切れません。
終活で手に入る3つのもの
終活を進めると、少なくとも3つのものが手に入ります。1つ目は、家族の判断の負担を減らせること。葬儀の形式ひとつ取っても、希望が書いてあれば親族間の意見の食い違いが起きにくくなります。
2つ目は、自分のお金の全体像が見えることです。使っていない口座、忘れていた保険、自動で引き落とされ続けている会費。書き出す作業は、そのまま家計の点検になります。実際に、終活をきっかけに固定費を見直したという声は多く聞きます。
3つ目は、残りの時間の使い方が具体的になることです。やり残したこと、会っておきたい人を書き出すと、優先順位が変わります。終活を始めた人が「気が滅入るかと思ったら、逆に予定が増えた」と話すのはこのためです。
ただし、始めた直後に気持ちが沈む時期が来ることもあります。親の介護や配偶者の病気と重なっている時期は、無理に進めないでください。手が止まったら、体調が落ち着くまで置いておく。それも正しい進め方の一つです。
生前整理・エンディングノート・遺言書はどう違う?
3つの言葉が混ざって使われがちなので、役割を分けておきます。生前整理は「物とお金の棚卸し」、エンディングノートは「希望と情報の記録」、遺言書は「財産の分け方を法的に決める文書」です。守備範囲が違うので、どれか1つで代用はできません。
東京弁護士会の説明によれば、エンディングノートには原則として法的効力がなく、財産分与や相続の希望を書いても遺族がそれに従う法的義務は生じません。一方で遺言書は、遺産の分割方法、相続人の廃除、認知、祭祀承継者の指定、遺言執行者の指定といった事項に法的効果を持たせられます。
だから使い分けが要ります。分け方を確実に実現したいなら遺言書、日々の連絡先や希望を伝えたいならエンディングノート。どちらか一方ではなく、両方そろえておくのが望ましいとされています。
やりがちな失敗は、エンディングノートに「土地は長男に」と書いて安心してしまうことです。書式が自筆証書遺言の要件を満たしていなければ、その1行は法的には希望の表明にとどまります。分け方を決めたいなら、別に遺言書を用意してください。
「いつかやる」が7割、実際にやっている人は6.3%
調査が映す、意向と行動の温度差
楽天インサイトが2024年1月に全国の20〜69歳男女1,000人に行った「終活に関する調査」では、終活の意向あり計が69.8%にのぼりました。ところが内訳を見ると、「実施している」は6.3%、「近いうちに始める予定」が6.2%で、残りの57.3%は「予定はないが、時期が来たら始めたい」です。
終活の意向あり計は69.8%。しかし「実施している」は6.3%にとどまる。男女別では男性64.3%・女性75.4%と女性が高く、女性60代では「近いうちに始める予定」19.0%、「実施している」16.0%と、他の層より行動に移す割合が高い(出典:楽天インサイト「終活に関する調査」2024年1月19日〜21日、全国20〜69歳男女1,000人)
この差を生んでいるのは、やる気の問題ではありません。「時期が来たら」と考えているうちに、その時期がいつなのか分からないまま過ぎていく構造の問題です。多くの人にとって終活は、締め切りのない宿題になっています。
裏を返せば、締め切りを自分で作れば動けます。誕生日の翌週、健康診断の結果が出た日、年賀状を書く時期。何かの行事に紐づけて「この日に1時間だけ」と決めた人が、続いています。
始めたきっかけは、年代でまるで違う
同じ調査では、終活を始めたきっかけが年代ごとに分かれました。30代は「子どもができたこと」23.0%、40代は「自分の健康に不安を感じたこと」22.4%、50代は「家族や大切な人が亡くなったこと」25.4%、60代はふたたび「自分の健康に不安を感じたこと」28.2%がトップです。
50代だけ、きっかけが外側から来ている点に注目してください。親や配偶者、友人を送った経験が引き金になっています。実際、葬儀の喪主を務めて「うちの父は何も残していなかった」と痛感し、そこから自分の準備を始めたという声が目立ちます。
60代のきっかけが健康不安に戻るのは、体の変化を自分ごととして感じ始めるからでしょう。ここで大事なのは、健康不安を感じてから始めると、体調によっては作業が進まない時期と重なるということです。
つまり、きっかけを待つより前に始めた人ほど、落ち着いて選べます。50代で親を送った経験がある方は、その記憶が新しいうちに手をつけると進みます。

「終活なんて、まだ先の話」——そう思っていたのに、親の入院や友人の訃報をきっかけに、ふと自分の老後や最期が気になり始めた。50代はそんな心境の変化が訪れる年代で…
みんなが最初にやっているのは「家の中の荷物整理」
実施している終活の内容は、1位が「家の中の荷物整理」46.8%、2位が「財産整理」32.2%、3位が「パソコンやスマートフォンなどのデータ整理」27.5%でした。半数近くが物の整理から入っています。
理由は分かりやすくて、目に見えて成果が出るからです。押し入れが1つ空けば達成感があります。逆に、遺言書や後見の話は結果が見えず、専門用語も多いので後回しになりがちです。
ただ、荷物整理から入る場合も、写真とアルバムだけは最後に回してください。思い出の品は手が止まります。1日で片づける計画を立てると、アルバムを開いた時点で3時間が消えます。衣類・食器・書類のような判断が速いものから始めるのが実際的です。
データ整理が3位に入っているのは近年の変化です。スマートフォンの中に、家族が知らない契約と写真が積み上がっています。この点は後の見出しで詳しく扱います。
【失敗パターン1】完璧な計画を立てて、半年後に止まる
よくあるのが、最初にA4の計画表を作り込んでしまうケースです。「1月は財産、2月は保険、3月は不動産」と月ごとに割り振り、市販のエンディングノートを買い、専門書も2冊そろえる。ここまでは順調です。
ところが2月の保険の欄で、証券が見つからない、保険会社に電話がつながらないといった小さなつまずきが起きます。そこで1週分ずれると、計画表全体が現実と合わなくなり、表を見るのが億劫になって、そのまま半年放置——という流れです。
原因は計画の粒度が大きすぎることにあります。「保険」は1つの作業ではなく、証券を探す・会社に電話する・受取人を確認する・書き写す、という4つの作業の束です。対策は、月単位ではなく「30分で終わる作業」に割ってリスト化すること。1行終わるたびに消せるので、止まっても再開できます。
終活は「完成」を目指すと止まります。年間計画より、30分で終わる作業の一覧を作る方が続きます。書き終わっていない項目があっても、書けた部分だけで家族の助けになります。空欄のまま家族に見せるのは、少しも恥ずかしいことではありません。
何から始める?やること6つに優先順位をつける

「本人にしか答えられないこと」から手をつける
優先順位の付け方はシンプルです。①本人にしか答えが出せないか、②本人が動けなくなると手続きが難しくなるか。この2つで並べ替えると、順番が自然に決まります。
この基準でいくと、医療とケアの希望、預金の管理を誰に頼むか、といった項目が上位に来ます。逆に、遺品の処分方法や葬儀の細部は、家族や業者が代わりに判断できる余地があるため、優先度は下がります。
意外に思われるかもしれませんが、遺言書は最上位ではありません。分ける財産の中身が固まっていない段階で書くと、書き直しが増えるからです。まず全体を棚卸しし、分け方の方針が見えてから作る方が無駄がありません。
ただし例外があります。相続でもめる可能性が高い事情——再婚している、相続人の一人と長く連絡が取れない、事業や不動産を特定の人に承継させたい——がある場合は、遺言書を先に用意する判断が要ります。この見極めは自分で抱えず、弁護士や司法書士に一度相談してください。
6つのやることと、それぞれの重さを比べる
終活で語られる作業を6つに整理し、当ブログで比較しました。「代わりがきくか」は、本人以外が判断できるかどうかの目安です。
| やること | 代わりがきくか | 法的効力 | 着手の目安 |
|---|---|---|---|
| ①医療・介護の希望を書く | 代われない | なし | 最優先 |
| ②財産と契約の棚卸し | 代われない | なし | 最優先 |
| ③支援者を決める(任意後見) | 代われない | あり | 早め |
| ④デジタルの整理 | 代わりにくい | なし | 早め |
| ⑤遺言書を作る | 代われない | あり | ②の後 |
| ⑥葬儀・お墓・持ち物 | 代われる部分あり | なし | 余力があるとき |
※高齢者あんしんノート調べ。法的効力の有無は、遺言書は日本公証人連合会・法務省、エンディングノートは東京弁護士会の説明に基づく
この表で伝えたいのは、上の2つが無料で今日から始められるという点です。費用がかかるのは③と⑤だけで、しかもその2つは上の2つが片づいてからで間に合います。「お金がかかりそうだから」と全体を止める必要はありません。
注意点として、⑥を軽く見すぎないでください。優先度は下がりますが、希望を一言も残さないと、家族は最も費用のかかる選択に流れがちです。「派手にしなくていい」の一文があるだけで違います。
1日30分・週末1回で進める段取り
現実的な進め方を示します。まとまった時間を取ろうとすると永遠に始まりません。1回30分、週に1回。これで半年もあれば骨格はできます。
- Step1: ノート1冊と封筒1枚を用意し、通帳・保険証券・年金の書類を封筒に集める(30分)
- Step2: 金融機関名と支店名だけを書き出す。残高は書かなくてよい(30分)
- Step3: 毎月・毎年の引き落としを通帳から書き写し、不要な契約に印をつける(30分)
- Step4: 医療とケアの希望、緊急時に連絡してほしい人を3人書く(30分)
- Step5: ノートの置き場所を家族1人に伝える。ここまでで前半は完了
残高を書かなくてよいのには理由があります。残高は変わるうえ、書くとノートの管理に神経を使うことになるからです。家族が困るのは金額を知らないことではなく、口座の存在自体を知らないことです。
Step3の引き落とし確認は、その場で効果が出る作業です。使っていない会費や保険が見つかることは珍しくありません。終活は支出を減らす作業でもあります。
夫婦二人・おひとりさま・親を手伝う人、立場別の入口
立場によって、最初の一歩は変わります。夫婦二人暮らしの方は、まず二人で同じノートに書くのではなく、それぞれ1冊ずつ持ってください。片方が先に判断力を失ったときに、もう片方の情報も一緒に分からなくなる事態を避けるためです。
おひとりさまの方は、財産の整理より先に「誰に連絡が行くか」を確定させてください。入院・死亡時の連絡先、緊急連絡先として名前を出してよい人。ここが空白だと、他の準備がすべて動きません。甥や姪に頼む場合は、事前に承諾を得ておきます。
親の終活を手伝う立場の方は、いきなりノートを渡さないことです。「書いておいて」は、多くの場合「早く死ねと言われた」と受け取られます。実家の片づけを一緒にする、保険証券を探すのを手伝う、といった作業の形で入ると角が立ちません。
共通する注意点は、他人と比べないことです。近所の方が納骨堂を決めたと聞いても、同じ順番で進める必要はありません。家族構成も財産の中身も違います。

「実家に帰るたび、物が増えている気がする」「親の家をどう片付けたらいいのか、考えるだけで気が重い」——そんなふうに感じている方は、決してあなただけではありません…
エンディングノートに書けること、書けないこと
法的効力はない。それでも家族がいちばん助かる1冊
エンディングノートには決まった様式がなく、自由に書けます。その代わり、原則として法的効力はありません。財産分与や相続の希望を書いても、遺族がそれに従う法的義務は生じないと東京弁護士会は説明しています。
それでも家族が助かるのは、手続きに必要な情報が1か所にまとまるからです。死亡後の手続きは、金融機関、保険会社、年金、公共料金、携帯電話と多岐にわたります。どこと契約しているかが分からないと、家族は郵便物が届くのを待ちながら1年近く手続きを続けることになります。
実際に役立つ項目は、金融機関名、保険会社名と証券番号、年金手帳の保管場所、かかりつけ医、菩提寺、加入している互助会、そして知らせてほしい友人の連絡先です。金額よりも「どこに」「誰に」の情報が効きます。
注意したいのは、市販のノートの項目を最初から順に埋めようとしないことです。1ページ目が生い立ちや家系図になっている商品も多く、そこで力尽きます。書ける欄から埋めてよい、と決めておいてください。
書く順番——1ページ目は財産ではない
順番に迷ったら、①緊急時の連絡先、②かかりつけ医と持病・服薬の記録、③金融機関と保険の一覧、④デジタル関係、⑤希望する医療とケア、⑥葬儀とお墓の希望、⑦家族へのメッセージ、の順で埋めるとつまずきにくくなります。
この順番にしているのは、上ほど「明日必要になるかもしれない情報」だからです。倒れて救急搬送されたとき、家族が真っ先に聞かれるのは持病と服薬の内容です。財産の一覧は、その場では誰も尋ねません。
服薬の記録は、お薬手帳のコピーを1枚挟んでおけば足ります。手書きで写す必要はありません。書く手間を減らした項目ほど、更新が続きます。
気をつけたいのは、暗証番号やクレジットカードの番号をそのまま書かないことです。ノートは金庫ではありません。番号ではなく「どこに保管してあるか」を書くにとどめてください。
見落とされがちなデジタル終活
国民生活センターは、令和6年11月の報道発表資料で「デジタル終活」の必要性を取り上げています。スマートフォンやパソコンの中のデータ、ネット上のアカウントと契約を、生前に整理しておく取り組みのことです。
大きな問題は2つあります。1つは、故人が契約していたサブスクリプションは、解約手続きをしない限り課金が続くこと。もう1つは、多くのデジタルサービスは死亡だけでは自動停止されず、各社の規約や事前設定に従った停止・削除・追悼アカウント化などの手続きが必要になることです。
家族が必要とするのは、実はパスワードそのものではありません。利用しているサービス名、登録したメールアドレス、支払方法、公式の手続き窓口、必要書類。この5つが分かれば、遺族の立場でも手続きを進められます。端末については、生体認証を設定していてもパスコードが分かればロックを解除できるため、パスコードの保管場所だけは決めておいてください。
デジタルの棚卸しは、記憶をたどるより通帳とクレジットカードの明細を1年分眺める方が速く終わります。毎月同じ金額が同じ名前で落ちていれば、それが契約の一覧です。名前だけメモしておけば、家族はそこから公式の窓口にたどり着けます。
【失敗パターン2】金庫にしまい込んで、誰も開けられなかった
丁寧に書き上げた方ほど陥るのが、保管の失敗です。個人情報が詰まっているからと耐火金庫に入れ、鍵は別の場所に隠す。ところが本人が入院してしまい、金庫の存在は知っていても開け方が分からない。結局、葬儀が終わって数か月後、遺品整理の途中で見つかった——という話は実際に起きています。
原因は、保管の安全性だけを考えて、伝達を設計しなかったことです。ノートは読まれて初めて役に立ちます。書き終えたら「ある場所」を最低1人、できれば2人に伝えてください。中身まで見せる必要はありません。
対策としては、置き場所を家族と共有する、鍵の保管場所を別の家族に伝えておく、更新したら「書き直した」とだけ伝える、の3つで足ります。冷蔵庫に医療情報の紙を貼っておく取り組みを進めている自治体もあり、救急隊がそこを見る仕組みが整っている地域もあります。お住まいの市区町村の窓口で確認してみてください。
遺言書は3,900円から残せる
自筆証書遺言書保管制度の手数料は3,900円
自分で書いた遺言書を法務局が原本と画像データで保管してくれるのが、2020年7月10日に始まった自筆証書遺言書保管制度です。法務省が公表している手数料は、遺言書の保管の申請が一件につき3,900円。これが遺言を公的に残す最も安い方法です。
保管を申請すると、自宅で保管する場合の「紛失する」「見つけてもらえない」「書き換えられる」といった不安が解消されます。加えて、この制度で保管された遺言書は家庭裁判所の検認が不要です。遺族の手続きが1つ減ります。
関連する手数料も公表されています。遺言書の閲覧請求はモニターによるものが一回1,400円、原本の閲覧が一回1,700円。相続開始後に遺族が取得する遺言書情報証明書の交付請求は一通1,400円、遺言書保管事実証明書の交付請求は一通800円、申請書等・撤回書等の閲覧請求は1,700円です。なお、保管の申請の撤回および変更の届出には手数料がかかりません。
注意点は、法務局は形式面を確認するだけで、内容が有効かどうかまでは審査しないことです。書き方に自信がない場合は、専門家に内容を見てもらってから申請する方が安全です。手数料の最新情報は法務省の自筆証書遺言書保管制度のページで確認できます。
公正証書遺言の手数料はいくらか
もう一つの選択肢が、公証人に作成してもらう公正証書遺言です。日本公証人連合会によると、手数料は相続させる財産の価額(目的の価額)ごとに決まっています。50万円以下が3,000円、100万円以下が5,000円、200万円以下が7,000円、500万円以下が13,000円、1,000万円以下が20,000円、3,000万円以下が26,000円、5,000万円以下が33,000円、1億円以下が49,000円です。
計算のしかたには特徴があります。相続人・受遺者ごとに手数料を算定し、その合計が証書全体の手数料になります。連合会が挙げている例では、総額1億円の財産を妻1人に相続させる場合は49,000円ですが、妻に6,000万円・長男に4,000万円と分ける場合は、妻49,000円と長男33,000円を足して82,000円になります。さらに、目的価額の合計が1億円以下の場合は遺言加算として13,000円が加わります。
このほか、正本・謄本の電子発行が1通2,500円、書面発行が1枚300円。体調が悪く公証役場に行けない場合は病床への出張も可能で、その際は基本手数料の50%が加算され、公証人の日当(1日20,000円、4時間以内10,000円)と交通費がかかります。作成には証人2人の立会いが必要です。
費用は自筆より高くなりますが、公証人が関与するため形式不備で無効になるリスクが低く、原本が公証役場に保管されます。財産の種類が多い方、相続人の関係が複雑な方はこちらが向いています。詳細は日本公証人連合会の手数料の説明をご覧ください。
実は、2026年の法改正を待つ必要はない
意外と知られていないのですが、遺言のルールは今まさに変わろうとしています。法務省によれば、2026年6月17日に成立し6月24日に公布された「民法等の一部を改正する法律」により、自筆証書遺言の押印が不要とされ、遺言書保管制度の手続の一部もオンラインで行えるようになる予定です。
ここで「では改正を待とう」と考える方がいます。しかし施行日は政令で定められることになっており、現時点ではまだ利用できません。いつから使えるかが決まっていない制度を待つ間に、書けるはずだった数年が過ぎてしまいます。
そもそも遺言書は何度でも書き直せます。今の方式で1通作っておき、新しい方式が使えるようになってから作り直せばよいだけです。日付の新しい遺言が優先されるため、古いものが足かせになることもありません。
注意すべきなのは、押印が不要になる予定だからといって、今から押印を省いてよいわけではないという点です。現行のルールでは全文・日付・氏名の自書と押印が要件です。施行前に省略すると、その遺言は要件を欠くことになります。
不動産があるなら、相続登記の義務化も一緒に
不動産をお持ちなら、遺言書とセットで押さえておきたいのが相続登記の義務化です。2024年4月1日から、不動産を相続したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務づけられました。正当な理由なく期限内に登記しなかった場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
見落とされやすいのは、この義務が施行前に発生した相続にもさかのぼって適用される点です。その場合の期限は2027年3月31日とされています。「亡くなった父の名義のままの土地がある」という心当たりがある方は、この日付を手帳に書いておいてください。
期限内の登記が難しい事情がある場合には、相続人申告登記という簡易な手続きがあります。法務局へ申し出るだけの暫定的な対応で、過料を避けられる仕組みです。
終活の文脈でこれが大事なのは、名義がそろっていない不動産は、遺言書があっても手続きが長引くからです。祖父母の代の名義が残っていないか、権利証や固定資産税の通知書を一度確認しておくと、あとの世代が助かります。手続きの詳細は法務局の窓口で相談できます。
葬儀とお墓、相場を先に知ると迷いが減る
葬儀費用の総額は平均96.73万円
鎌倉新書が実施した「第7回お葬式に関する全国調査(2026年)」によると、葬儀費用の総額の平均は96.73万円でした。内訳は基本料金が72.02万円、飲食費が11.67万円、返礼品費が13.03万円です。調査は2026年2月27日から3月3日にかけて、直近2年以内に喪主を経験した40歳以上の男女2,000名にインターネットで行われました。
葬儀の種類別の平均費用は、一般葬122.01万円/家族葬96.39万円/一日葬74.43万円/直葬・火葬式49.56万円。実際に行われた葬儀は家族葬が47.0%(940人)で最多、次いで一般葬30.2%(604人)、一日葬11.9%(238人)、直葬・火葬式10.8%(216人)(出典:鎌倉新書「第7回お葬式に関する全国調査(2026年)」)
数字を見ると、家族葬がすでに半数近くを占めています。「うちだけ簡素にしたら失礼にあたるのでは」と気にされる方がいますが、今はそちらが多数派です。
注意点として、費用は地域と参列者数で動きます。飲食費と返礼品費は人数に比例するため、参列者が多ければ平均を上回ります。同時に、香典を受け取れば収支は変わります。総額だけを見て決めず、葬儀社の見積書で内訳を確認してください。
お墓は樹木葬が47.4%を占める時代に
お墓の選び方も、この10年で大きく変わりました。同じ鎌倉新書の「第17回お墓の消費者全国実態調査(2026年)」では、購入したお墓の種類は樹木葬が47.4%で最多、次いで合祀墓・合葬墓16.4%、納骨堂15.5%となっています。
平均購入金額は、一般墓が152.0万円、納骨堂が81.5万円、樹木葬が71.7万円です。樹木葬と納骨堂は一般墓のおよそ半分の予算で用意できます。重視した点は「お墓の種類」50.0%、「金額」43.9%、「継承者不要」38.8%、「お墓参りにアクセスのよいエリア」38.4%と続きました。
継承者不要が4割近くに上る点に、時代の変化が表れています。子どもに管理の負担をかけたくないという判断が、選択を動かしています。
注意したいのは、合祀にすると原則として遺骨を取り出せないことです。あとから「やはり手元に」と思っても戻せません。夫婦や兄弟で考えが違う場合は、契約前に話し合ってください。

「そろそろ実家のお墓を墓じまいしようと思うけれど、当日はいったい何を着ていけばいいの?」——そんな疑問を抱えてこのページにたどり着いた方は多いはずです。法事なら…
相続税の基礎控除を知れば「うちは関係ある?」が分かる
財産の話で最初に確かめたいのが、相続税がかかる家庭かどうかです。国税庁によると、基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で計算します(2026年度時点)。相続や遺贈で取得した財産の価額の合計額がこの基礎控除額を超える場合に、その超える部分に対して相続税が課されます。
法定相続人の数の数え方には決まりがあり、相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数を用います。まずは自宅の評価額と預貯金を足して、控除額と比べてみてください。
生前贈与について言えば、贈与税の基礎控除は年間110万円です(暦年贈与)。ただし相続開始前の一定期間の贈与は相続財産に加算されるなど例外があり、制度改正も続いています。
ここで大切なのは、自己判断で節税策に踏み込まないことです。税額の計算や特例の適用可否は個別の事情で変わります。国税庁のタックスアンサーで全体像をつかんだうえで、税務署や税理士に確認してください。
おひとりさまが検討したい死後事務委任契約
遺言書には、財産の分け方は書けても、葬儀の実施や携帯電話の解約といった事実行為を法的に強制する力はありません。そこを埋めるのが死後事務委任契約です。葬儀や納骨、行政手続き、遺品整理などを第三者に委任し、確実に実行してもらうための契約とされています。
費用の目安は、契約書の作成に数万円から30万円程度、受任者への報酬が50万〜100万円程度、預託金が必要な場合は70万〜150万円程度と説明されています。ただしこれらは事業者や専門家によって幅があり、精算型を選べば預託金が不要になる場合もあります。契約前に内訳を書面で確認してください。
頼れる親族が近くにいない方、甥や姪に負担をかけたくない方には、検討する価値があります。反対に、同居の家族がいて手続きを担ってくれる見込みがあるなら、必ずしも必要ではありません。
注意点は、預託金の管理方法です。誰がどこで預かるのか、事業者が事業を続けられなくなったときにどうなるのかを確認しないまま契約すると、後で困ります。複数の事業者から見積もりを取り、消費生活センターや専門家に相談してから決めてください。
判断力があるうちにしかできない手続きがある
認知症471.6万人という推計が示すもの
終活を「元気なうちに」と繰り返す理由は、この数字にあります。厚生労働省が公表した将来推計では、2025年の認知症高齢者数は471.6万人とされています。九州大学の二宮利治教授らによる有病率調査と将来推計の研究に基づくものです。
補足すると、2012年の調査に基づく報告では2025年に675万人と推計されていました。今回はそれを下回っています。喫煙率の低下や生活習慣病管理の改善などが影響した可能性が指摘されており、悲観一色の数字ではありません。
ただ、それでも400万人を超える規模です。そして重要なのは、判断能力が不十分と判断されると、預金の引き出し、不動産の売却、遺言書の作成といった法律行為ができなくなる点です。家族が代わりに手続きしようとしても、金融機関は応じません。
だから終活には、時間切れがあります。「まだ元気だから」は始めない理由になりますが、同時に「今なら全部できる」という意味でもあります。
任意後見制度——元気なうちに「誰に」を決めておく
判断能力が落ちたあとの備えが任意後見制度です。判断能力があるうちに、将来支援してくれる人(任意後見人)と支援の内容を公正証書で決めておく契約で、実際の効力は家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から生じます。
費用は日本公証人連合会が公表しています。任意後見契約公正証書の基本手数料が13,000円、法務局に納める収入印紙代が2,600円、登記嘱託手数料が1,600円。正本・謄本等は電磁的記録の発行が1通2,500円、書面発行が1枚300円です。病床出張の場合は6,500円が加算されます。書留郵便料は重量によって若干異なります。
ここで知っておきたいのが、判断能力が落ちてから使う法定後見の実情です。最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和6年1月〜12月)」によると、制度の利用者数は253,941人で前年比約1.8%増。後見人等に親族が選任されたのは約17.1%で、残る約82.9%は親族以外が選任されています。
つまり、何も決めずに判断能力を失うと、支援者は家庭裁判所が選ぶことになり、多くの場合それは家族以外の専門職です。誰に頼むかを自分で決めたいなら、元気なうちに任意後見契約を結んでおく必要があります。制度が自分に合うかどうかは、公証役場や弁護士・司法書士に相談して判断してください。
人生会議で、医療とケアの希望を共有する
お金の手続きと並んで大事なのが、医療とケアの希望です。厚生労働省は、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)に「人生会議」という愛称をつけ、普及を進めています。大切にしたいこと、望んでいる生き方、「もしものとき」にどのような医療やケアを望むかを、前もって考え話し合っておく取り組みです。
ポイントは、1回で結論を出す会議ではないことです。体調や状況が変われば希望も変わります。厚労省は繰り返し話し合うことを想定しており、11月30日を「人生会議の日」としています。
進め方に決まりはありませんが、家族が集まる機会に「もし自分が話せなくなったら、誰に決めてほしいか」を伝えるところから始めると入りやすくなります。決定を任せる人を1人決めておくだけでも、家族の負担は軽くなります。
注意したいのは、具体的な治療の可否を書き残しても、その場の医学的判断はご本人の状態によって変わるということです。個別の治療については、必ずかかりつけ医と相談してください。考え方は厚生労働省の「人生会議」特設ページにまとまっています。
迷ったら地域包括支援センターへ(相談は無料)
ここまで読んで「相談先が多すぎる」と感じた方にお伝えしたいのが、地域包括支援センターの存在です。市町村が設置する地域包括ケアの中核機関で、高齢者の総合相談、権利擁護、地域の支援体制づくり、介護予防の援助を担っています。相談は無料です。
厚生労働省の資料によれば、全国に5,487か所が設置されており、ブランチ(支所)を含めると7,374か所になります(令和7年4月末現在)。担当区域が住所で決まっているので、市区町村の窓口かホームページで自分の担当センターを確認してください。
ここに相談する利点は、話を整理してもらえることです。保健師や社会福祉士、主任ケアマネジャーが配置されており、成年後見の相談窓口や介護保険の申請、見守りサービスなど、必要な先につないでもらえます。「何を聞けばいいか分からない」段階でも構いません。
- ☑ 担当の地域包括支援センターの場所を市区町村のホームページで確認した
- ☐ 困っていることを3つだけ紙に書き出した
- ☐ 介護保険証・健康保険証・お薬手帳を持った
- ☐ 同居家族・別居家族の連絡先を控えた
- ☐ 遺言や後見の相談なら、財産のおおまかな一覧を持った
まとめ:終活とは、これからを自分で決めておく作業
終活という言葉に身構えてしまうのは、「終」の一文字のせいかもしれません。けれど実際にやっているのは、連絡先を書き、契約を数え、希望を伝えるという、生活の整理そのものです。楽天インサイトの調査で意向あり計が69.8%なのに実施している人が6.3%にとどまっているのは、始め方が分からないだけで、必要性を疑っている人はほとんどいないということでもあります。
この記事で見てきたように、最初の2つ——医療とケアの希望を書くこと、財産と契約を棚卸しすること——には費用がかかりません。今日、ノートと封筒を1つ用意して、通帳と保険証券を集めるだけで前に進みます。費用が必要になるのは遺言書や任意後見の段階で、それは棚卸しが終わってからで間に合います。
もし何から手をつけるか決めきれないなら、今週の30分で「緊急時に連絡してほしい人を3人書く」だけやってみてください。これは誰にも代われず、家族が最初に必要とする情報で、しかも書き終わるのに5分もかかりません。その1枚が、次の作業への呼び水になります。
※記事内の制度・手数料・統計は2026年8月時点で公表されている内容です。金額や制度は改定されることがあるため、手続きの前に法務省・日本公証人連合会・国税庁・厚生労働省などの公式サイト、またはお住まいの市区町村の窓口で最新情報をご確認ください。

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