「エンディングノートって、親の世代が書くものでしょう?」——そう思っていた人が、友人の入院やスマホの機種変更をきっかけに検索してたどり着くことが増えています。20代・30代で書き始める人が実際にいて、しかもその理由が「死ぬ準備」ではないと知ると、少し見え方が変わってくるはずです。
結論から言うと、若い人向けのエンディングノートは「自分にしか分からない情報の置き場所」です。スマホのロック、契約中のサブスク、ネット銀行、SNSのアカウント——これらは元気なうちは誰にも困らせませんが、事故や急な入院で1週間連絡が取れなくなっただけで、家族が動けなくなります。国民生活センターが2024年11月に「デジタル終活」の注意喚起を出したのも、まさにこの困りごとが相談として届いているからです。
この記事では、20代・30代が最初に埋めるべき7項目、110円から2,475円まで実際に手に入るノートの比較、そしてエンディングノートでは守れないことと遺言書との線引きまで、公的機関の一次情報にあたりながら整理しました。1日15分・3回で書き終える手順も用意しています。
・20代の約3割が終活を「取り組んだ・考えたことがある」と回答(よりそう調査、1,200人)
・若い人が最初に書くのはスマホのロックとサブスク・ネット銀行の契約リスト
・ノートは法務省版(無料)・100均(税込110円)・コクヨ(税込2,475円)・アプリ(無料)から選べる
・エンディングノートに法的効力はない。財産の分け方を決めたいなら遺言書が必要(東京弁護士会)
エンディングノート若い人向けが広がる理由|20代の3割が終活を意識している

「若いのに終活なんて縁起でもない」という空気は、数字を見ると実態と少しずれています。まずは、いま何が起きているのかを確認しておきましょう。
20代の約3割が「終活に取り組んだ・考えたことがある」と答えている
葬儀サービスのよりそうが全国20代以上の男女1,200人に実施した終活意識調査(2021年10月1〜4日実施)では、20代のおよそ3割が終活に「既に取り組んでいる」「取り組もうと思ったことはある」と回答しました。さらに、終活の必要性を認識している割合は20代で6割強にのぼります。
この背景には、SNSやサブスクの普及で「自分が管理しているものが多すぎる」という感覚が若い世代ほど強いことがあります。銀行口座は通帳で分かっても、証券アプリやコード決済の残高は本人以外に見えません。同じ調査では、家族に情報を伝える手段として女性の4割以上がエンディングノートを支持し、全体でもトップでした。
注意しておきたいのは、この数字が「実際に書き終えた人が3割」という意味ではないことです。「考えたことがある」を含む数値なので、実行に移した人はもっと少ないと考えるのが自然です。関心はあるのに手が止まる——その差を埋めるのが、あとで紹介する「1日15分・3回」の進め方です。
所有率13.3%——書いた時点で少数派に入れる
NPO法人ら・し・さ(終活アドバイザー協会)が2025年7月に公開した第2回終活意識全国調査では、エンディングノートを所有している人は全体の13.3%(男性9.6%、女性16.3%)でした。所有者のうち実際に記入している割合は男性65.4%、女性54.9%です。
つまり、全体で見れば10人に1人強しか持っておらず、持っていても半数近くは白紙のまま。逆に言えば、書き始めた時点でかなりの少数派に入れるということです。就職や結婚、引っ越しといった生活の節目に合わせて1冊持っておくだけで、家族が困る場面はぐっと減ります。
同じ調査では、終活として認識されている項目は「金融口座・金融商品の整理」が42.3%と最多で、「家具・家財の整理処分」35.1%、「エンディングノートを書く」26.7%と続きます。世の中の終活イメージは「モノとお金の整理」に寄っていて、情報の整理はまだ主流になっていません。ここが若い世代のノートが役に立つ余地でもあります。
・エンディングノート所有率:全体13.3%(男性9.6%/女性16.3%)
・所有者のうち記入している割合:男性65.4%/女性54.9%
・終活として認識されている項目:金融口座・金融商品の整理42.3%/家具・家財の整理処分35.1%/エンディングノートを書く26.7%
(出典:NPO法人ら・し・さ 第2回終活意識全国調査 2025年7月公開)
若い人が書くのは「死の準備」ではなく「連絡がつかない日」の備え
若い世代のエンディングノートは、死後よりも先に「入院したとき」に使われます。交通事故や急病で本人が話せない状態になると、家族はまずスマホを開こうとして詰まります。勤務先への連絡、加入している保険、家賃の引き落とし口座——どれも本人のスマホの中にあるからです。
国民生活センターが2024年11月20日に公表した「今から考えておきたいデジタル終活」でも、故人のスマホが開けずネット銀行の契約先が分からなくなった事例(2024年2月受付・60歳代男性)が紹介されています。携帯電話会社の店舗に画面ロックの解除を依頼しても「初期化はできるが、画面ロックの解除はできない」と回答され、確認できないまま止まってしまったケースです。
この構図は、亡くなったときだけでなく、意識が戻らない入院でもそっくり同じことが起こります。だからこそ「まだ早い」ではなく「連絡がつかない日が1日でもあると困るか」で考えるのが、若い人向けの判断軸になります。ノートに書くのは遺言ではなく、業務の引き継ぎ書に近い感覚です。
50代以上の終活とは、書く中身がまるで違う
同じ「エンディングノート」でも、50代以上の終活と20代・30代の目的は別物です。ハルメクが全国の男女50〜79歳2,016名に実施した調査(2025年2月14〜17日)では、終活を「すでに始めている」層は44.0%で、終活実施者がかけた費用は平均約503万円でした。墓じまいや家財の処分、葬儀の準備といった、お金と実物が動く終活です。
一方で20代・30代には、まだ墓も家財もローンの完済も関係ないことがほとんどです。書くべきなのは費用のかかる準備ではなく、無料でできる情報の整理。だから100均のノート1冊でも十分成立します。
ここを取り違えて「終活=お金と時間がかかるもの」と思い込むと、いつまでも始まりません。年代によって終活の中身が変わることを前提に、いまの自分に必要な項目だけ埋めれば大丈夫です。50代前後の家族に勧めたい場合は、下の記事のほうが実情に合っています。

「終活なんて、まだ先の話」——そう思っていたのに、親の入院や友人の訃報をきっかけに、ふと自分の老後や最期が気になり始めた。50代はそんな心境の変化が訪れる年代で…
何から書く?スマホの中を見える化する4項目(①〜④)
最初のページから順番に埋めようとすると、たいていの人は「本籍地」あたりで手が止まります。若い世代は順番を無視して、ここで挙げる4項目から書くのが実用的です。
①スマホ・パソコンのロックを解除する手がかりを残す
最優先はスマホとパソコンのロックです。国民生活センターは、スマホやパソコンには契約情報や確認メールが集約されているため、万一のときに遺族がロックを解除できる状態にしておく必要があると指摘しています。ただし、パスワードを日頃から家族に共有しておくのは別のトラブルのもとです。
そこで同センターが紹介しているのが、次の2段階の工夫です。手順1として、名刺大の紙にパスワードなどを記入し、パスワード部分に修正テープを2〜3回重ね貼りしてマスキングして保管します。手順2として、遺族が必要になったときにコインなどで修正テープを削って把握します。誰かが削って見た形跡に気づいたら、すぐパスワードを変更すれば安全性を保てます。
パスワードをそのまま書くことに抵抗があるなら、家族にだけ分かる合言葉(「パートナーの誕生日」など)を記載する方法も同センターは挙げています。エンディングノート本体に生のパスワードを書き込むのではなく、「この紙のここに書いてある」という置き場所だけをノートに残す形が現実的です。
失敗パターン①:ノートに全パスワードを生のまま書き、机の引き出しに入れっぱなし
原因は「家族に伝わること」だけを考えて、第三者に見られるリスクを考えていないこと。ノートは金庫の中にあるとは限らず、引っ越しや来客で人目に触れます。対策は、ノートには「パスワードの紙のありか」だけを書き、パスワード自体は修正テープでマスキングした別紙か、家族にだけ通じる合言葉で残すこと。ノート本体と手がかりを分けて置くのが基本です。
②サブスク・ネット銀行・コード決済の契約リストをつくる
2つ目は、契約しているサービスの一覧です。サブスクの契約は、契約者本人が亡くなっても解約手続きをしない限り請求が続きます。事業者側には契約者が死亡した事実を知る手段がないため、遺族が手続きをするしかありません。
国民生活センターに寄せられた事例では、夫を亡くした80歳代の女性がクレジットカードの明細に約1,000円の不明な請求を見つけ、カード会社に問い合わせて請求元にたどり着いたものの、事業者から「すぐに解約するにはIDとパスワードが必要」「分からなければすぐには解約できない」と言われています(2024年7月受付)。別の事例では、コード決済サービスの相続手続きが1か月たっても残高の回答すら得られませんでした(2023年10月受付・50歳代女性)。
書くべきは、サービス名・ID・支払い方法(どのカードから引かれているか)の3点です。パスワードまでは書かなくても構いません。同センターも、ID・パスワードが分からなくても契約先事業者さえ特定できれば、遺族からの連絡で解約に応じてもらえるケースが多いとしています。動画・音楽・クラウド・ゲーム課金・ジム・通信教育まで、カード明細をさかのぼって書き出せば1時間ほどで終わります。
③SNSアカウントの扱いと、死後アクセスの指名を設定する
SNSは「消してほしい」「残してほしい」で家族の判断が割れる項目です。ノートには、アカウント名と希望(削除・追悼アカウント化・そのまま放置)をひと言添えておきます。ダイソーのエンディングノートにもSNSの記入欄があり、アカウントの閉鎖や訃報の扱いを選ぶ形式になっています。
ノートに書くのと並行して、プラットフォーム側の設定も済ませておくと確実です。Googleには「アカウント無効化管理ツール」があり、データを受け取る相手を10人まで指定できます。設定した時点では相手に通知は届かず、指定した期間アカウントが使われなかった場合にのみ通知される仕組みです。プランを設定しないまま2年以上Googleを使用しなかった場合、Googleがアカウントとデータを削除する権限を持つ点も公式に明記されています。
Appleには「故人アカウント管理連絡先」があり、生前に指名した人へアクセスキーが共有され、遺族がアクセスキーと死亡証明書を提出することで故人のアカウントにアクセスできるようになります。国民生活センターも、この2社の設定を事前に済ませておく対策を案内しています。設定できる人数や条件は変更されることがあるため、実際の設定画面と各社の公式案内で最新の内容を確認してください。
- Step1: Googleアカウントの「データとプライバシー」から「アカウント無効化管理ツール」を開き、通知先(最大10人)と実行までの期間を設定する
- Step2: Apple製品を使っているなら「サインインとセキュリティ」から「故人アカウント管理連絡先」を追加し、アクセスキーを相手に渡す
- Step3: 設定したこと自体をエンディングノートに1行書く(設定しても本人以外は気づけないため)
④保険・勤務先・緊急連絡先を1ページにまとめる
4項目目は、家族がすぐ電話をかける必要がある連絡先です。加入している生命保険・医療保険の会社名と証券番号、勤務先の部署と直属の上司の連絡先、賃貸なら管理会社と保証会社、加入している健康保険の種類——このあたりが揃っていれば、入院初日の混乱はかなり減ります。
保険は特に見落とされがちです。若い世代は勤務先の団体保険やクレジットカードに付帯する保険に入っていることがあり、本人も忘れていることが珍しくありません。証券番号までは書けなくても「どの会社に何の保険で入っているか」だけでメモしておけば、家族が問い合わせられます。
注意点は、連絡先を書いたきり更新しないことです。転職・引っ越し・保険の乗り換えのたびに古くなるので、鉛筆で書くか、ページを差し替えられるノートを選んでおくと管理が楽になります。逆に、家族構成が大きく変わらない項目(本籍地、かかりつけ医など)は一度書けば長く使えます。
残り3項目(⑤〜⑦)|お金・からだ・気持ちを1ページずつ

ここからの3項目は、書くのに少し気持ちの整理がいるパートです。1ページずつでいいので、思いついた順に埋めていきましょう。
⑤資産と借入・奨学金の残高を書き出す
⑤は資産と負債です。預金口座(銀行名と支店名まで。残高は書かなくてよい)、証券口座、暗号資産、財形貯蓄、そして奨学金や自動車ローン、カードのリボ残高といった借入も同じページにまとめます。
プラスの資産だけ書いて負債を書かない人が多いのですが、家族にとって重要度が高いのはむしろ負債のほうです。相続では負債も引き継がれるため、どこにいくら借りているかが分からないと、家族は判断そのものができません。日本学生支援機構の奨学金のように、本人以外に保証人が関わっている契約もあります。
ここでの注意点は、残高や暗証番号を書き込まないこと。金額は日々変わるうえ、書いた瞬間からノートの危険度が上がります。書くのは「どこに口座があるか」まで。実際の残高は、家族が金融機関に問い合わせれば確認できます。なお、故人が株取引をしていたか不明な場合は、証券保管振替機構(ほふり)への開示請求(有料)で証券口座の開設先を調べられることも、国民生活センターの資料に注記されています。
⑥医療・延命についての希望と、臓器提供の意思を記す
⑥は、自分で意思を伝えられなくなったときの希望です。ここは書き方に幅があってよく、「痛みは抑えてほしい」「面会は近しい人だけにしてほしい」といった簡単な希望でも、家族にとっては判断の支えになります。
臓器提供については、公的な意思表示の仕組みがあります。日本臓器移植ネットワークによると、意思表示の方法はマイナンバーカード・運転免許証・インターネットによる意思登録・臓器提供意思表示カードの4つ。健康保険証は新規発行が終了しましたが、手元の保険証に表示された意思は有効とされています。記入は該当番号を○で囲み、提供したくない臓器には×をつけ、本人の署名と署名年月日を自筆で記入します。番号の○や署名・署名年月日が欠けていると完全な意思表示とみなされません。複数の方法で意思表示をしている場合は、最新の署名年月日のものが有効です。
より踏み込んで延命治療についての意思を残したい場合は、公益財団法人日本尊厳死協会のリビング・ウイルという選択肢もあります。満15歳以上で意思表明能力があれば入会でき、正会員は年2,000円、終身会員は70,000円(いずれも1人あたり)。協会が書類の原本を保管し、会員証1枚と原本証明付コピー2枚が送られます。夫婦で入会する場合は書類が1人1通必要なため、2人分の会費がかかります。制度の詳細や医療現場での扱いは、必ず協会や主治医に確認してください。
- ☑ 預金・証券・暗号資産の口座の「ありか」を書いた(残高・暗証番号は書かない)
- ☐ 奨学金・ローン・リボ残高など借入の契約先を書いた
- ☐ 臓器提供の意思表示をマイナンバーカードか運転免許証に記入し、署名年月日も入れた
- ☐ 意思表示をしたことを家族に伝えた(日本臓器移植ネットワークも家族への共有を推奨)
- ☐ 大切な人へのメッセージを1人分でも書いた
⑦家族・パートナー・ペットへのメッセージを1人分から書く
⑦は気持ちのページです。全員分を一度に書こうとすると重くなるので、まず1人分だけ書きます。長文である必要はなく、「これまでありがとう」の1行でも構いません。
この項目が実務でも意味を持つのは、ペットがいる場合です。飼い主が入院・死亡したときに誰が引き取るかを決めていないと、行き先が宙に浮きます。「誰に引き取ってほしいか」「かかりつけの動物病院はどこか」「食べているフードの種類」を書いておくだけで、預かる側の負担は大きく変わります。引き取り先の候補には、事前に口頭で承諾を取っておくのが親切です。
気をつけたいのは、メッセージ欄に感情的な要望(「〇〇には渡さないでほしい」など)を書き残す場合です。エンディングノートに法的効力はないため、その希望が実現する保証はなく、かえって家族間の火種になることがあります。関係の調整が必要な内容は、次の章で触れる遺言書の領域と考えたほうが穏当です。
110円から2,475円まで|自分に合うノートの選び方【高齢者あんしんノート調べ】
ノート選びで迷って買わないまま終わる人が多いので、実際に手に入る4つの選択肢を価格順に並べます。どれを選んでも書く内容は変わりません。
無料で確実に手に入る法務省版エンディングノート
費用をかけたくないなら、法務省と日本司法書士会連合会が作成したエンディングノート「〜あなたに届け、わたしの想い〜」があります。法務局の窓口で無料配布されているほか、PDFでも無料でダウンロードできます。相続・遺言・後見など、法務局と司法書士が扱う手続きの説明が付いているのが特徴です。
このノートは、国民生活センターがデジタル終活の対策として「スマホのパスワードや契約中のサービスの整理に活用しましょう」と名指しで紹介しているものでもあります。公的機関がつくったものなので、内容の信頼性を気にせず使えるのが利点です。
注意点は、市販品に比べると若い世代向けのデザイン性は期待できないこと、そしてPDFを印刷する手間がかかることです。窓口でもらう場合は、法務局によって配布状況が異なるので、行く前に管轄の法務局のサイトを確認しておくと確実です。法務省のエンディングノート(PDF)から直接ダウンロードもできます。

100円ショップの110円ノート——まず1冊試すならここ
「続くか分からないから安く試したい」なら100円ショップです。2026年8月時点で、ダイソー・セリアとも1冊税込110円で販売されています。ダイソー版はB5サイズ・全96ページで、SNSアカウントの扱いやパスワードの記入欄まで用意されています。セリア版はA5サイズ・全32ページと、項目を絞った軽い構成です。
2冊買っても220円なので、書き損じても気になりません。若い世代にとっては、この「気軽に捨てられる・書き直せる」という点が実は重要です。転職や引っ越しのたびに内容が古くなるため、数年に一度まるごと書き直す前提のほうが続きます。
ただし、100円ショップの商品は入れ替わりがあり、店舗によっては取り扱いがありません。文具売り場ではなくノートコーナーや家計簿の棚に置かれていることが多いので、見つからなければ店員に商品名を伝えて聞くのが早道です。
コクヨ「もしもの時に役立つノート」——長く使うならこの1冊
市販品の定番が、コクヨのエンディングノート「もしもの時に役立つノート」(品番LES-E101)です。コクヨ公式ステーショナリーオンラインショップでの価格は税込2,475円、セミB5サイズ・32枚。銀行口座・保険・クレジットカードなど、年齢を問わず今日から書き込める項目が中心に構成されています。
価格差の理由は、項目の設計と紙質です。何を書けばいいか分からない人でも、質問に答える形で埋めていけば必要な情報が揃うようになっています。書き込む欄が広く、長期保管に耐える作りなのも、一度書いて数年置いておく使い方に向いています。
通販サイトでは割引価格で流通することがあるため、急がないなら価格を見比べてから買うのも手です。注意点として、市販のエンディングノートは項目数が多く、全部埋めようとすると挫折しやすいこと。若い世代は前章の①〜④だけ先に埋めて、残りは空欄のままで構いません。

紙が続かない人へ——無料アプリという選択肢
紙のノートが続かない人には、スマホアプリという選択肢もあります。三菱UFJ信託銀行が提供する「わが家ノート」は無料でダウンロードでき、同行に口座がなくても利用できます。金融機関の情報や遺しかたを記録して家族と共有できるエンディングノート機能に加え、歩数・食事・血圧の記録といった健康管理機能も備えています。
アプリの利点は、いつでも更新できることと、書いた内容がスマホの中にあるので思い出したときすぐ追記できることです。転職や引っ越しの多い20代・30代には、この更新のしやすさが向いています。
一方で、アプリは「スマホが開けないと読めない」という根本的な弱点を抱えています。ロック解除の手がかりだけは紙に残しておかないと、いざというとき家族はアプリにたどり着けません。紙とアプリの併用——紙は1枚、中身はアプリ——が現実的な折衷案です。
| ノート・サービス(2026年8月時点) | 価格と向いている人 |
|---|---|
| 法務省・日本司法書士会連合会版 (法務局窓口・PDF) | 無料 費用をかけず、公的な解説つきで書きたい人 |
| ダイソー版 (B5・全96ページ) | 税込110円 SNSやパスワード欄が必要な20代・30代 |
| セリア版 (A5・全32ページ) | 税込110円 項目が少ないほうが続く人 |
| コクヨ もしもの時に役立つノート (LES-E101・セミB5・32枚) | 税込2,475円(公式ショップ価格) 一度書いて長く保管したい人 |
| わが家ノート (三菱UFJ信託銀行アプリ) | 無料 紙が続かない人・更新頻度が高い人 |
実は、若い人のエンディングノートで一番出番が多いのは死後ではなく「自分が使うとき」です。契約中のサブスクを一覧化すると、忘れていた月額課金が見つかって固定費が下がる。保険の一覧をつくると、重複した保障に気づく。ネット銀行の口座を書き出すと、休眠していた口座を思い出す。終活として身構えるより、「家計の棚卸しをしたらノートが完成していた」という順番のほうが、20代・30代は続きます。
エンディングノートで守れないこと|遺言書との線引きを先に知る
ノートを書き始める前に知っておきたいのが、エンディングノートで「できないこと」です。ここを誤解したまま書くと、あとで家族が困ります。
法的効力はない——東京弁護士会が示す「できないこと」
東京弁護士会の解説では、エンディングノートには決まった様式がなく自由に記載でき気軽に始められる一方で、法的効力はないと明記されています。作成しても財産を移転させる効果はなく、発見されない・すでに遺産分割が終わっている・発見されても従ってもらえない、といった可能性があるため確実性がないと説明されています。
なぜそうなるかというと、遺言は民法で方式が定められており、その方式に従わない書面には法的な拘束力が生じないからです。エンディングノートは法的な文書ではなく、気持ちや希望を伝えるための文書という位置づけになります。
ただし「法的効力がない=意味がない」ではありません。手続きに必要な情報を家族に届けるという役割は、遺言書にはできないことです。書ける自由度が高いぶん、契約リストや連絡先、スマホの手がかりといった実務情報はノートのほうが向いています。役割が違うと理解して使い分けるのが正解です。東京弁護士会の解説ページも一度目を通しておくと、線引きがはっきりします。
失敗パターン②:分け方をノートに書いて安心してしまった
2つ目の失敗パターンは、「この口座は妹に」「この車は弟に」と分け方をエンディングノートに書き込み、それで手当てが済んだと思い込むケースです。原因は、ノートと遺言書の性質の違いを知らないまま、書式の自由さだけを見て書いてしまうことにあります。
実際には、その記載に法的な拘束力はありません。相続人全員が納得すればそのとおりに分けられますが、1人でも異なる意見を持てば、ノートの記載は「故人の希望」にとどまります。かえって、希望に沿わない結果になったときに感情のしこりが残ることもあります。
失敗パターン②:財産の分け方をエンディングノートに書いて完了した気になる
対策は、内容を2つに仕分けること。①手続きに必要な情報(口座のありか・契約先・連絡先・スマホの手がかり)はエンディングノートへ。②財産を誰にどう渡すかという意思は遺言書へ。ノートには「遺言書は○○に保管している」と1行だけ書いておけば、両方が正しく機能します。判断に迷う内容は、弁護士・司法書士・行政書士など専門家にご相談ください。
財産の指定が必要なら、自筆証書遺言書保管制度という手がある
財産の渡し先まで決めておきたい場合は、自分で書いた遺言書を法務局に預けられる「自筆証書遺言書保管制度」があります。法務省が公表している手数料は、遺言書の保管申請が一件につき3,900円です。
関連する手数料も公表されています。遺言書の閲覧請求はモニターによる場合が一回1,400円、原本の場合が一回1,700円。相続が発生した後に相続人が請求する遺言書情報証明書の交付は一通1,400円、遺言書保管事実証明書の交付は一通800円、申請書等・撤回書等の閲覧は一の申請または撤回につき1,700円です。なお、保管申請の撤回および変更の届出には手数料がかかりません。
注意点は、この制度が「形式のチェックと保管」をするものであって、内容が有効かどうかまで保証するものではないことです。書き方や内容に不安があるときは、司法書士や弁護士に相談したうえで作成するほうが確実です。手数料の一覧は法務省の公式ページで最新のものを確認できます。
若い人は「遺言書までは不要」でいい場合も多い
とはいえ、20代・30代の全員に遺言書が必要かというと、そうではありません。財産の分け方をめぐって家族の意見が割れそうな事情がなく、資産も預金と勤務先の退職金制度が中心という状況なら、まずはエンディングノートだけで十分に役目を果たします。
遺言書を検討したほうがよいのは、事情がある場合です。事実婚や同性のパートナーがいる、独身で兄弟姉妹しか相続人がいない、事業や持ち家など分けにくい資産がある、といったケースでは、書面の形式が結果を左右します。
判断の目安は「自分がいなくなったとき、誰かが困る事情があるか」です。思い当たるなら、ノートを書き終えたタイミングで一度専門家に相談してみてください。制度の適用や必要な書面は個々の事情で変わるため、具体的な判断は必ず専門家・法務局にご確認ください。
エンディングノート若い人向けの書き方|1日15分・3回で終わらせる手順
ノートを買っても書けない最大の理由は「まとまった時間が取れないこと」です。1回15分・全3回に分けて、平日の夜に片付ける前提で進めます。
1回目(15分):スマホと契約を棚卸しする
初回はスマホだけを見ます。ホーム画面のアプリを上から順に見て、お金が動いているもの(サブスク・ネット銀行・証券・コード決済・ゲーム課金)をノートに書き出します。書くのはサービス名と支払い方法の2つだけ。IDやパスワードはこの段階では書きません。
アプリを見終わったら、クレジットカードの明細アプリを開いて直近12か月をさかのぼります。アプリを消したまま契約が残っているサービスは、明細にしか出てきません。この作業で不要な課金が見つかることも多く、そのまま解約すれば固定費が下がります。
初回でつまずきやすいのは、完璧に洗い出そうとすることです。抜けがあっても構いません。書き出した時点で、家族が探す範囲は大きく狭まります。時間が来たら途中でも切り上げて、次回に回してください。
2回目(15分):連絡先とお金まわりを書く
2回目は、家族が電話をかける先を書きます。勤務先の部署と上司の連絡先、賃貸の管理会社、加入している保険会社、かかりつけの病院、そして親しい友人のうち「訃報を伝えてほしい人」を数人。SNSでしかつながっていない友人がいる場合、家族はその存在すら知らないので、名前と連絡手段を書いておきます。
続けて、預金・証券・暗号資産の口座と、奨学金やローンなどの借入先を書きます。ここでも残高や暗証番号は書きません。金融機関名と支店名まで分かれば、家族は問い合わせができます。
この回の落とし穴は、書きながら「これは家族に見られたくない」と感じる項目が出てくることです。無理に書く必要はありません。見られたくない情報こそ、③で触れたGoogleやAppleの死後アクセス設定に任せて、ノートには「設定済み」とだけ書く方法が使えます。
3回目(15分):気持ちとメッセージを書く
3回目は、医療の希望、臓器提供の意思、そして大切な人へのメッセージです。事務的な情報を2回で書き終えたあとだと、気持ちのパートは書きやすくなっています。
臓器提供の意思表示は、この日にマイナンバーカードか運転免許証の記入欄を埋めてしまうのが早道です。該当番号を○で囲み、本人の署名と署名年月日を自筆で記入します。署名と署名年月日が抜けていると完全な意思表示とみなされないため、ここだけは丁寧に。記入したら家族に伝えることも、日本臓器移植ネットワークが推奨しています。意思表示の方法(日本臓器移植ネットワーク)で記入例を確認できます。
メッセージは1人分から。全員に書こうとして止まるくらいなら、一番伝えたい相手に3行書いて終わりにするほうが、ノートとしては完成度が高くなります。
書き終えたら「置き場所」を1人に伝える
最後の仕上げが、保管場所の共有です。国民生活センターの相談事例が示すとおり、遺族が困るのは情報がないときだけでなく、情報が「見つからない」ときでもあります。金庫の奥や貸金庫にしまい込むと、その存在に誰も気づけません。
伝える相手は1人で構いません。親でも、きょうだいでも、パートナーでも、いざというときに家に入れる人がいれば十分です。「本棚の一番下の引き出しにノートがある」とLINEで1回送っておくだけで役目を果たします。
注意したいのは、伝えた相手が先に連絡がつかなくなる可能性です。可能なら2人に伝えておくと安心度が上がります。そして、内容を更新したときは「更新した」と一言添えること。古い情報のまま信じられるほうが、書かないより厄介な場面もあります。
- Step1: 1日目はスマホのアプリとカード明細12か月分から、お金が動くサービスを書き出す
- Step2: 2日目は勤務先・保険・病院・訃報を伝えたい友人と、口座・借入の「ありか」を書く
- Step3: 3日目は医療の希望・臓器提供の意思表示・メッセージを書き、保管場所を1〜2人に伝える
立場で変わる書き分け|ひとり暮らし・パートナー・実家暮らし・ペットのいる人
同じ7項目でも、置かれている状況によって力を入れるべき箇所は変わります。自分に近いパターンを見つけてください。
ひとり暮らしの20代・30代——「発見されるまで」を想定する
ひとり暮らしで最も重要なのは、緊急連絡先と住まいの情報です。倒れて救急搬送されたとき、病院が最初に探すのは連絡できる家族です。財布に入るサイズのカードに、氏名・血液型・緊急連絡先・かかりつけ医・持病の有無を書いて携帯しておくと、ノートより先に役立ちます。
住まいの情報も欠かせません。賃貸の管理会社と保証会社、家賃の引き落とし口座、更新月。入院が長引けば家賃の支払いが止まり、部屋を維持できなくなるためです。ペットや観葉植物がいるなら、合鍵の所在も書いておきます。
注意点は、実家が遠い場合です。親が新幹線や飛行機の距離にいると、駆けつけるまでに半日かかります。近隣に住む友人や職場の同僚のうち、緊急時に連絡してよい人を1人決めてノートに書いておくと、初動が速くなります。
結婚前のパートナーがいる人——法律上の立場を確認しておく
事実婚や同性のパートナー、婚約中の相手がいる場合、書くべき内容は増えます。日本の民法では、法律上の配偶者でないパートナーは相続人になりません。医療同意や葬儀の場面でも、家族として扱われないことがあります。
この場合、エンディングノートには「パートナーの存在と連絡先」「入院時に会わせてほしい」「葬儀に呼んでほしい」といった希望を明記しておくことに意味があります。法的効力はなくても、家族が判断するときの手がかりになるからです。
ただし、財産を渡したい、住まいを引き継いでほしいといった希望は、ノートだけでは実現しません。前章のとおり、財産の帰属に関わる部分は遺言書の領域です。個別の事情によって必要な手続きが変わるため、弁護士・司法書士などの専門家に確認してください。
実家暮らし・親と同居の人——親のぶんも一緒につくる
実家暮らしなら、自分のノートを書くついでに親にも1冊渡す、という進め方ができます。「終活しなよ」と言うと角が立ちますが、「自分が書いたから、ついでに」なら受け取ってもらいやすくなります。100円ショップで2冊買っても220円です。
親世代のノートで優先度が高いのは、預金と保険、そして固定電話や公共料金の名義です。若い世代とは違い、通帳や証書が紙で残っていることが多いので、「どこに保管しているか」を書いてもらうだけで手続きが進みます。
気をつけたいのは、こちらのペースで急かさないことです。親世代にとって終活は感情を伴うテーマで、書きたくない項目もあります。空欄があっても指摘せず、書けたページだけで十分だと伝えるほうが、結果的に埋まる欄は増えます。実家の片付けや不用品の整理と並行して進めると、親も目的が分かりやすくなります。
ペットを飼っている人——引き取り先を先に決めておく
犬や猫と暮らしている人は、引き取り先の確保が最優先です。入院が数週間に及ぶだけでも世話ができなくなるため、死後だけでなく入院時の預け先も決めておきます。候補には必ず事前に承諾を取り、その人の名前と連絡先をノートに書きます。
書いておく内容は、動物病院の名前と診察券番号、ワクチンの接種状況、フードの銘柄と与える量、持病と服薬、苦手なもの。預かる側は生活のリズムが分からないので、この情報があるかどうかで負担が変わります。
費用の備えについては、負担付遺贈やペット信託といった仕組みも存在しますが、契約内容や費用は利用する事業者によって大きく異なります。検討する場合は、行政書士や信託を扱う専門家、自治体の相談窓口に条件を確認してください。まずは「誰が引き取るか」を口約束でも決めておくことが、一番効果の大きい備えです。
ひとり暮らしは緊急連絡先と住まいの情報、パートナーがいる人は存在と希望の明記、実家暮らしは親のぶんも一緒に、ペットがいる人は引き取り先の事前承諾。立場によって最優先の1ページは変わります。全項目を埋めるより、自分にとって欠けたら困る1ページを先に埋めてください。
まとめ|エンディングノートは若い人こそ、110円から始められる
エンディングノートを若い人向けに書く目的は、財産を分けることでも、葬儀を決めることでもありません。自分にしか分からない情報——スマホのロック、契約中のサブスク、ネット銀行、SNSのアカウント、加入している保険——を、いざというときに家族が見つけられる場所に置いておくことです。国民生活センターの相談事例が示すとおり、この情報がないだけで、遺された家族は解約1件に何か月も費やすことになります。
そして、書き始めるハードルは思っているより低い場所にあります。法務省と日本司法書士会連合会のエンディングノートは法務局の窓口で無料配布され、PDFでも無料ダウンロードできます。100円ショップなら税込110円、コクヨの市販品でも公式ショップ価格で税込2,475円。アプリなら無料で、いつでも更新できます。
最後に、この記事の要点を整理します。
- 20代の約3割が終活を「取り組んだ・考えたことがある」と回答している一方、エンディングノートの所有率は全体で13.3%にとどまる
- 若い世代が最初に書くのは、①スマホ・パソコンのロックの手がかり ②サブスク・ネット銀行・コード決済の契約リスト ③SNSの扱いと死後アクセス設定 ④保険・勤務先・緊急連絡先
- 続く3項目は、⑤資産と借入の「ありか」 ⑥医療の希望と臓器提供の意思 ⑦大切な人へのメッセージ
- パスワードはノートに生のまま書かず、修正テープでマスキングした別紙や合言葉で残す(国民生活センターの手順)
- エンディングノートに法的効力はない。財産の帰属を決めたい場合は遺言書。法務局の保管制度は保管申請が一件3,900円
- 臓器提供の意思表示は、マイナンバーカード・運転免許証・インターネット登録・意思表示カードの4つの方法があり、署名と署名年月日が必須
- 書き終えたら保管場所を1〜2人に伝える。伝えていないノートは存在しないのと同じ
最初の一歩としておすすめしたいのは、今夜スマホを開いて、お金が動いているアプリの名前を紙に書き出すことです。ノートを買いに行くのはそのあとで構いません。5つも書けば、自分がどれだけの契約を1人で抱えているかが見えてきます。その一覧が、そのままエンディングノートの1ページ目になります。
なお、制度の内容・手数料・各社のサービス条件は変更されることがあります。本記事は2026年8月時点で公開されている情報にもとづいています。実際の手続きにあたっては、法務局・日本臓器移植ネットワーク・各社の公式サイトなど一次情報をご確認いただき、相続や遺言に関する個別の判断は弁護士・司法書士などの専門家、または自治体の相談窓口にご相談ください。

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