「還暦を迎えるけれど、何か気をつけることってあるのかしら」「お祝いはうれしいけれど、体もお金も、この先どうなるのか少し心配」。60歳の誕生日が近づくと、そんな思いがふと浮かぶものです。赤いちゃんちゃんこのイメージはあっても、実際に何に備えればいいのかは、案外だれも教えてくれません。
先に結論をお伝えすると、還暦で気をつけることは大きく分けて「体の変化」「お金と制度」「心と人間関係」「お祝いのマナー」の4つです。海外の研究では、老化は少しずつ進むのではなく、44歳と60歳の2回に急に進む時期があると報告されています。60歳はまさに、体の使い方や暮らしの組み立てを見直すのにちょうどいい節目なのです。
この記事では、60歳前後で起こりやすい体の変化、年金・医療費・介護保険で「変わること・変わらないこと」、定年前後の心の持ち方、そしてお祝いを受ける側・贈る側のマナーまで、順番に整理しました。お茶でも飲みながら、気になるところから読んでみてください。
・60歳で体に起こりやすい変化と、今日からできる備え
・年金・医療費・介護保険で60歳・65歳・70歳・75歳に変わること
・定年前後の「心の落ち込み」を防ぐ準備のしかた
・還暦祝いで本人も家族も気をつけたいマナーとNGな贈り物
還暦で気をつけることは7つ|まずは全体像をつかもう

還暦は「生まれた年の干支に還る」という意味で、昔から再出発の節目とされてきました。ここでは、60歳前後で押さえておきたい7つのポイントを先に一覧にして、なぜ今それが大事なのかをお話しします。
60歳は「人生を一巡する」再出発の年
還暦は、終わりではなく「もう一度スタートラインに立つ年」と考えるのが一番しっくりきます。干支は十干と十二支の組み合わせで60年かけて一巡するため、60歳で生まれた年と同じ暦に還る、というのが還暦の由来です。赤いものを身につける風習も、赤ちゃんに還って生まれ直すという再出発の意味を込めたものだといわれています。
具体的に言えば、60歳は多くの会社で定年や再雇用の切り替えが起こる年齢で、年金の受け取り方を選べるようになる入り口の年齢でもあります。体の面でも、後でくわしくご紹介するように変化が出やすい時期です。つまり「暦」「仕事」「制度」「体」の4つが同時に動く、めずらしい節目なのです。
ただし、受け止め方は人それぞれです。「まだまだ現役」と感じている方にとって、還暦という言葉自体がくすぐったいこともあるでしょう。お祝いの形も地域や家庭によってまちまちなので、「こうしなければならない」と構えず、自分に合う区切りの付け方を選べば十分です。
体・お金・心・マナーの4分野で考える
気をつけることは、体・お金と制度・心と人間関係・お祝いのマナーの4分野に分けると、ぐっと整理しやすくなります。バラバラに心配すると不安ばかりが大きくなりますが、分野ごとに「今やること」「65歳までにやること」と分けて考えれば、一つずつ片づけられるからです。
たとえば体なら、健康診断の結果を見直す、歯医者に行く、歩く習慣をつける。お金と制度なら、年金をいつから受け取るか、医療費の負担割合がいつ変わるかを知っておく。心なら、定年後の過ごし方を今のうちに描いておく。マナーなら、お祝いのお返しや贈り物のNGを知っておく、といった具合です。
注意したいのは、4分野すべてを一度に完璧にしようとしないことです。60歳からの時間は、思っているより長く続きます。まずは下のチェックリストで「自分はどこが手薄か」を確かめて、気になる分野から手をつけていけば大丈夫です。
- ☐ ① 健康診断の結果を「前年との変化」で見直した
- ☐ ② 骨と足腰を意識して、毎日歩く習慣がある
- ☐ ③ 歯の定期検診に1年以内に行った
- ☐ ④ 年金を受け取り始める年齢の選択肢を知っている
- ☐ ⑤ 医療費と介護保険が何歳で切り替わるか知っている
- ☐ ⑥ 定年後の1週間の過ごし方を具体的に描ける
- ☐ ⑦ 還暦祝いのお返しと贈り物のNGを知っている
「まだ若い」と思う人ほど見落としやすいこと
実は、還暦で一番気をつけたいのは「自分はまだ大丈夫」という思い込みです。今の60歳は見た目も気持ちも若く、仕事も続けている方が大勢います。そのぶん、体や制度の変化に気づくのが遅れがちなのです。
背景には、60歳前後の変化の多くが「自覚症状のないまま進む」という特徴があります。たとえば骨の量の減少は、骨折するまで痛みもなく進むことから「サイレントディジーズ(沈黙の病気)」と呼ばれています。制度の面でも、介護保険は40歳から64歳までと65歳以上とで扱いが変わるなど、知らないうちに条件が切り替わっています。
具体的には、「階段で手すりを使うようになった」「夜中にトイレで起きる回数が増えた」「人の名前がすぐ出てこない」といった小さなサインが、見直しのきっかけになります。ただ、こうしたサインがあっても過度に心配する必要はありません。気になることがあれば、自己判断せずにかかりつけ医に相談するのが一番の近道です。
60歳は体の曲がり角?研究でわかった変化と健康管理
「60歳で急に体が変わる」と聞くと少しドキッとしますが、知っておけば備えられます。ここでは研究でわかってきたことと、日々の暮らしで気をつけたいポイントをお話しします。
老化は「44歳と60歳」に急に進むという研究
老化はなだらかに進むのではなく、44歳と60歳の2回、急に進む時期があるという研究結果が報告されています。米国スタンフォード大学とシンガポールの南洋理工大学の研究チームが、108人を数年間にわたって観察し、体の中の分子の変化を調べた結果です。
60代で変化が見られたのは、炭水化物やカフェインの代謝、免疫の調節、腎臓の働き、心臓や血管、皮膚や筋肉にかかわる分子でした。報道では、60歳を境にこうした変化が広く及ぶことで、脳や心臓・血管の病気、腎臓病、感染症、がん、2型糖尿病などのリスクが高まると紹介されています。
ただし、対象は108人と規模の小さい研究で、すべての人に当てはまるわけではありません。「60歳になったら必ず病気になる」という意味ではなく、「体の働きが切り替わりやすい時期だから、生活を見直すきっかけにしよう」と受け止めるのがちょうどいいでしょう。
・観察対象:108人を数年間にわたり追跡
・急に変化が起きる時期:44歳と60歳の2回
・60代で変化が見られた分野:炭水化物・カフェインの代謝、免疫調節、腎臓機能、心血管系、皮膚・筋肉
(出典:スタンフォード大学・南洋理工大学の研究を紹介したフィガロジャポンの記事)
お酒とたばこは「少しずつ減らす」が現実的
お酒やたばこの習慣がある方は、60歳を機に少しずつ減らしていくのがおすすめです。先ほどの研究で、60代ではカフェインや炭水化物の代謝、腎臓や血管の働きに変化が出やすいとされているように、若いころと同じ飲み方・吸い方を続けると体への負担が積み重なりやすくなるからです。
「今日からきっぱりやめる」と決めると、かえって長続きしないことがよくあります。たとえば、晩酌を「毎日」から「週に何日かは休む日をつくる」に変える、グラスを小ぶりにする、たばこは1日の本数を決めて持ち歩く分だけにする、といった小さな工夫から始めると続けやすいものです。
注意したいのは、定年や再雇用で生活リズムが変わると、昼間からお酒に手が伸びやすくなることです。時間ができたぶん飲む量が増えてしまった、という話は珍しくありません。どのくらい控えるのがよいかは体の状態によって違うので、健康診断の結果とあわせて医師に相談してみてください。
見落としがちな歯の健康
60歳の体の手入れで意外と後回しになりやすいのが、歯の健康です。虫歯は放っておいても自然に治ることはなく、痛みが出たときには進んでいることが多いため、定期的に歯科で診てもらうことが大切です。
歯が大事なのは、食べる楽しみだけでなく、しっかり噛んで食べることが体づくりの土台になるからです。骨や筋肉を保つには、食事から十分な栄養をとる必要があります。噛みにくい歯があると、やわらかいものばかり選ぶようになり、食事の内容が偏りがちになります。
具体的には、「半年に1回は歯科検診を受ける」「治療途中で放置している歯がないか確認する」といったことから始めてみましょう。ただ、どのくらいの間隔で通うのがいいかは、歯や歯ぐきの状態によって違います。かかりつけの歯科医師に、自分に合った通院の目安を聞いておくと安心です。
健康診断は「数値の変化」を見る
60歳前後の健康診断は、その年の結果が基準内かどうかだけでなく、前の年からどう変わったかを見るのがポイントです。60歳を境に代謝や腎臓、血管の働きが変わりやすいとされる以上、「基準内だけど少しずつ上がっている」という流れに早めに気づくことに意味があるからです。
たとえば、ここ3年分の結果を並べて、血圧・血糖・腎臓の数値などが同じ方向に動いていないかを眺めてみましょう。定年退職すると会社の健診がなくなり、自分で自治体の健診を申し込む必要が出てくる方もいます。受け損ねた年ができないよう、退職前に受け方を確認しておくと安心です。
ここで気をつけたいのは、数値を見て自己判断で「大丈夫」「もうダメだ」と決めつけないことです。数値の意味は、年齢や持病、飲んでいる薬によって変わります。気になる変化があれば、結果を持ってかかりつけ医に相談するのが一番です。
骨と足腰を守る|転ばない体づくりで気をつけたいこと

60代以降の暮らしを左右するのが、骨と足腰の健康です。骨折をきっかけに外出が減り、そこから体力が落ちていく、という流れは避けたいもの。ここでは骨と転倒について押さえておきましょう。
骨の量は60代から年々減っていく
60代以降は、加齢や閉経などが原因で骨の量(骨密度)が年々減っていきます。とくに女性は閉経後に骨の量が減りやすく、骨粗しょう症になると、転んだときに骨折しやすくなります。
やっかいなのは、骨粗しょう症は骨折やその痛みが起こるまで自覚症状がないことです。公益財団法人長寿科学振興財団の健康長寿ネットでは、こうした特徴から「サイレントディジーズ」と呼ばれていると紹介しています。見た目や体調では気づけないので、「測ってみないとわからない」ものだと考えておきましょう。
具体的な備えとしては、50歳前後から骨密度を定期的に測ってリスクを知っておくことが大切だとされています。自治体によっては骨粗しょう症の検診を行っているところもあるので、お住まいの市区町村の案内を確認してみてください。男性も無関係ではないので、ご夫婦で一緒に測ってみるのもいいきっかけになります。
転倒の原因は夜間のトイレと視力にも
高齢者の骨折の多くは転倒によるもので、転倒のきっかけは足腰の衰えだけではありません。夜中のトイレや、目の見えにくさも転倒の原因になります。
健康長寿ネットによると、60歳以上の約8割が尿もれなど何らかの排尿のトラブルを抱えていて、とくに夜間頻尿が転倒のリスクを高めているといいます。夜中に何度も起きて、暗い中を寝ぼけたまま急いでトイレへ向かう——この場面が、実は危ないのです。視力の低下も、段差や障害物に気づきにくくなることで転倒に影響します。
家の中でできる工夫としては、寝室からトイレまでの通り道に足元灯を置く、床に物を置かない、敷物の端がめくれていないか確認する、といったことが挙げられます。夜間のトイレの回数が増えて気になるときは、年のせいとあきらめず、医療機関に相談してみてください。
・寝室からトイレまでの廊下に、人感センサー付きの足元灯を置く
・スリッパはかかとまで包むタイプにして、つまずきを減らす
・よく使う物は腰から目の高さの棚に置き、踏み台に乗る回数を減らす
・メガネが合わなくなったと感じたら、早めに眼科や眼鏡店で見直す
歩く習慣は70歳以上でも目安がある
転倒を防ぐには、ふだんから歩くことが一番の基本です。健康長寿ネットでは、日常生活で歩く運動を積極的に行うことが転倒予防に有効だとしたうえで、70歳以上でも男性で6,700歩、女性で5,900歩という目安を紹介しています。
歩くことが大事なのは、骨・関節・筋肉をまとめて使うからです。骨や筋肉は使わないと衰えやすく、加齢にともなう筋肉量の減少(サルコペニア)を防ぐためにも、運動の習慣を保つことが欠かせないとされています。60代はまだ体力に余裕があるうちに、習慣を作っておける大事な時期です。
具体的には、買い物は一駅分歩く、エレベーターより階段を選ぶ、散歩の時間を決める、といった形で日常に組み込むと続きます。ただし、ひざや腰に痛みがある方、持病がある方は、急に歩数を増やすとかえって体を痛めることもあります。どのくらい歩くのがよいかは、医師と相談しながら決めてください。
カルシウムと骨密度検査の考え方
骨を守るうえで基本になるのが、毎日の食事で十分な量のカルシウムをとることです。健康長寿ネットでは、十分な量のカルシウムを毎日とることは、骨粗しょう症だけでなく高血圧や認知症の予防にも効果的だとされていると紹介しています。
骨の予防の中心は、骨・関節・筋肉をまとめて健康に保つ「運動器の健康維持」です。そのうえで、定期的な骨密度の測定、十分なカルシウム摂取、運動習慣の維持、そして必要に応じて医療機関での治療、という組み合わせで考えるのが基本とされています。食事・運動・検査のどれか一つだけでは足りない、ということですね。
ここで気をつけたいのは、サプリメントなどで「これだけ飲めば大丈夫」と考えてしまうことです。牛乳や小魚、大豆製品、青菜など、ふだんの食事から少しずつとる意識が大切です。持病があって食事に制限がある方もいるので、心配な方は医師や管理栄養士に相談してみましょう。
年金・医療費・介護保険|60歳で変わること・変わらないこと
還暦を迎えると、お金にまつわる制度の話が急に身近になります。ただ、60歳ですべてが変わるわけではありません。何歳で何が切り替わるのかを、年齢順に整理しておきましょう。
年金は60歳から75歳の間で受け取り始めを選べる
老齢年金は原則65歳から受け取るものですが、60歳から75歳の間で、受け取り始める年齢を自分で選ぶこともできます。日本年金機構でも、この仕組みが案内されています(2026年度時点)。
65歳より早く受け取り始める「繰上げ受給」を選ぶと年金額は減り、66歳から75歳の間に遅らせる「繰下げ受給」を選ぶと年金額は増えます。つまり、60歳は「いつから受け取るか」を考え始める年齢だといえます。なお、昭和27年4月2日より前に生まれた方などは、繰下げの上限が70歳までといった例外もあります。
注意したいのは、「早くもらったほうが得」「遅らせたほうが得」と一概には言えないことです。働き方や健康状態、配偶者の年金、ほかの収入によって向き不向きが変わります。自分の場合どうなるかは、ねんきん定期便や年金事務所の窓口で確認し、ご家族とも相談しながら決めるのが安心です。
医療費の窓口負担は70歳まで変わらない
病院の窓口で払う医療費の自己負担は、60歳になっても変わりません。60歳から69歳までは現役世代と同じ3割負担で、70歳から74歳は原則2割、75歳以上は後期高齢者医療制度に移って1割負担が基本です(2026年度時点の一般的な区分)。
「還暦になると医療費が安くなる」と思っている方もいますが、負担割合が下がるのは70歳からです。しかも、70歳から74歳でも、年収がおよそ370万円以上ある「現役並み所得者」は3割負担のまま据え置かれます。75歳以上の負担割合も、所得によって1割より高くなる場合があります。
具体的に気をつけたいのは、定年退職で会社の健康保険を抜けるときです。任意継続にするのか、国民健康保険に入るのか、家族の扶養に入るのかで、保険料の負担が変わります。どれが自分に合うかは収入や家族構成によって違うので、退職前に会社の担当部署や市区町村の窓口で確認しておきましょう。
介護保険は65歳で「第1号」に切り替わる
介護保険は40歳以上が加入する制度で、40歳から64歳は「第2号被保険者」、65歳以上は「第1号被保険者」と区分されます。60歳の時点ではまだ第2号で、65歳になると第1号に切り替わります。
大きな違いは、介護サービスを使える条件です。生命保険文化センターによると、第2号被保険者は、介護が必要になった原因が加齢にかかわる16種類の「特定疾病」の場合に限ってサービスを使えます。事故によるけがは対象外です。65歳以上の第1号被保険者になると、原因を問わず介護サービスを利用できます。
保険料の払い方も変わります。第2号の保険料は加入している医療保険ごとに計算され、会社員は事業主と折半で払います。第1号の保険料は市区町村が所得段階に応じて決め、2024年度の全国平均は月額6,225円程度(2024年度時点)です。年金が年18万円以上ある方は、年金から天引きされます。金額は市区町村によって幅があるので、お住まいの自治体の案内で確認してください。
年齢別に変わる制度の早見表
60歳から75歳までの間に、制度は少しずつ段階的に切り替わっていきます。一つひとつを覚えるより、年齢ごとに「何が変わるか」を表で眺めておくほうが、先の見通しが立てやすくなります。
下の表は、この記事で扱った年金・医療費・介護保険・運転免許について、高齢者あんしんノートが公的機関などの情報をもとに年齢別にまとめたものです。60歳は「選び始める年齢」、65歳は「制度が切り替わる年齢」、70歳・75歳は「負担と手続きが変わる年齢」と覚えておくとわかりやすいでしょう。
| 年齢 | 主に変わること(高齢者あんしんノート調べ) |
|---|---|
| 60歳 | 年金の繰上げ受給が選べるようになる/医療費は3割負担のまま/介護保険は第2号のまま |
| 65歳 | 年金の原則の受け取り開始年齢/介護保険が第1号に切り替わる/免許更新時の高齢者講習はまだ不要 |
| 70歳 | 医療費が原則2割負担に(現役並み所得者は3割)/免許更新前に高齢者講習が必要に |
| 75歳 | 後期高齢者医療制度へ(1割負担が基本)/年金の繰下げ受給の上限/免許更新時に認知機能検査が加わる |
ただし、表はあくまで一般的な区分です。所得や生まれた年、加入している保険によって例外があります。気になる項目は、それぞれの窓口や公式サイトで自分の条件に当てはめて確認してください。
定年前後の心と人間関係で気をつけること
還暦のころは、多くの方が定年や再雇用という働き方の節目を迎えます。体やお金だけでなく、心の健康にも目を向けておきたい時期です。
定年で必ず落ち込むわけではない
まず安心していただきたいのは、定年退職をすると誰もが落ち込むわけではない、ということです。国立長寿医療研究センターが256名を対象に調べたところ、平均的には定年退職の前後で抑うつ傾向は変化していなかったと報告されています。
一方で、同じ調査では、退職後に抑うつが強まる人もいれば、逆に良くなる人もいるなど、個人差が大きいこともわかっています。仕事のストレスから解放されて元気になる人がいる一方で、張り合いをなくしてしまう人もいる、ということです。「定年うつ」という言葉もあり、60歳前後で仕事中心の生活から急に家にこもる生活へ変わるときに陥りやすいといわれています。
注意したいのは、再雇用で働き続けていても安心とは限らない点です。役職を外れたり、年下の上司のもとで働いたりと、立場が変わることで気持ちが揺れる方もいます。「自分は大丈夫」と決めつけず、気分の落ち込みが長く続くときは、早めに医療機関や相談窓口を頼ってください。
準備していた人ほど心の健康を保てる
国立長寿医療研究センターは、定年退職は予測できる人生の転機なので、前からよく準備していた人は、退職後も心の健康を良く保つことができると伝えています。つまり、定年後の心の健康は「退職してから」ではなく「退職する前」に決まる部分が大きいのです。
具体的な準備としては、趣味や習い事の計画を立てておく、退職後の生活の中身を前もって考えておく、自由な時間の使い方を決めておく、といったことが挙げられます。たとえば「月曜は図書館、水曜は体操教室、金曜は孫の送り迎え」のように、1週間の予定をざっくり描いてみると、足りないものが見えてきます。
ただ、計画をぎっしり詰めすぎると、今度は予定に追われて疲れてしまいます。国立長寿医療研究センターも、定年退職にともなう生活の変化に柔軟に対応することが大切だとしています。「やってみて合わなければ変えればいい」くらいの気持ちで、余白のある計画を立てておきましょう。
- Step1: 退職後の「平日1週間」の過ごし方を紙に書き出してみる
- Step2: 会社以外の居場所(趣味の会・地域の集まり・習い事)を1つ見学しておく
- Step3: 家事の分担や1日の過ごし方を、配偶者や家族と話し合っておく
失敗パターン①:会社以外の居場所がなくて孤立した
定年前後によくある失敗が、会社以外の人間関係がほとんどないまま退職し、家にこもりがちになってしまうケースです。新しい環境で人間関係をうまく作れず、孤立感を抱える人は少なくありません。
たとえば、こんな場面です。60歳で定年退職したAさん(男性)は、「しばらくのんびりしよう」と思っていましたが、3か月もすると話し相手が妻だけになりました。地域の集まりに顔を出そうにも、知り合いがおらず気後れしてしまう。気づけば昼過ぎまでテレビの前で過ごす日が増え、妻とも口げんかが増えてしまいました。
原因は、会社という「毎日行く場所」と「毎日話す相手」が、退職と同時にまとめてなくなったことです。対策としては、在職中から会社の外に顔見知りを作っておくことが一番の近道です。たとえば休日に地域の清掃活動に参加する、趣味のサークルに入る、といった小さな一歩で十分です。いきなり大きな集まりに飛び込むより、少人数の場から始めるほうが気楽に続けられます。
「退職したら考えよう」は孤立の入り口になりがちです。退職直後は時間があるぶん、かえって一歩が踏み出しにくくなります。在職中の週末に、会社の外の知り合いを1人でも作っておくと、退職後の暮らしがぐっとラクになります。
夫婦の時間が急に増えるときの心がまえ
定年後に意外と戸惑うのが、夫婦で家にいる時間が急に増えることです。お互いに悪気はなくても、生活のリズムの違いがストレスになることがあります。
長年、平日の昼間はそれぞれ別の場所で過ごしてきた夫婦にとって、1日中一緒にいるのは、いわば新しい生活の始まりです。片方は自分のペースで家事や趣味の時間を作ってきたのに、もう片方が毎日家にいることで、その時間が崩れてしまうこともあります。定年前後の心の健康に人間関係が大きくかかわるのは、家の中でも同じです。
具体的には、昼食は各自で用意する日を作る、それぞれが1人で出かける日を決める、家事を「手伝う」ではなく「担当する」形で分ける、といった工夫が役に立ちます。ただ、どんな形が心地よいかは夫婦によって違います。「こうあるべき」と決めつけず、定年前から少しずつ話し合っておくのがいちばんの備えです。
還暦祝いで気をつけることは?本人と家族のマナー
還暦で気をつけることには、お祝いのマナーも含まれます。祝ってもらう本人も、祝う家族も、ちょっとした決まりごとを知っておくと安心です。
お祝い金の相場は立場で変わる
還暦祝いでお金を贈る場合、一般的には、両親へは5,000円~5万円程度、祖父母へは1万~3万円程度、その他の親族や恩師、上司へは5,000円~2万円程度が目安とされています。
幅が広いのは、お祝いの形がお金だけとは限らないからです。食事会の費用を子どもたちで持つ家庭もあれば、記念の品を贈る家庭もあります。兄弟姉妹で出し合って1つの贈り物にすることも多く、「一人あたりいくら」より「全体としてどう祝うか」で決まることがよくあります。
注意したいのは、相場はあくまで目安で、地域や家庭によって考え方が違う点です。親戚の間で昔からの決まりがある家もあるので、兄弟姉妹や年長の親族と先に相談しておくと、金額がちぐはぐになるのを防げます。お祝い金の包み方や渡し方については、下の記事でくわしくまとめています。

「還暦祝いって、結局いくら包めばいいんだろう」——親の60歳が近づいてくると、多くの人がこの一点で立ち止まります。品物にするか現金にするか、封筒はご祝儀袋でいい…
水引は紅白の蝶結び、のしも忘れずに
還暦祝いのご祝儀袋や贈り物には、紅白の蝶結び(花結び)の水引を使います。蝶結びは何度でも結び直せることから、「何度あってもうれしいお祝い」に使うのが決まりです。長寿のお祝いは、70歳の古希、77歳の喜寿と続いていくので、蝶結びがふさわしいとされています。
のしをつけるのはフォーマルなマナーで、とくに目上の方へ贈る場合は欠かせません。表書きは「祝還暦」「還暦御祝」などとし、下に贈る側の名前を書くのが一般的です。子どもたちの連名で贈るときは、年長者から右に順に書いていきます。
ここで気をつけたいのは、結婚祝いなどで使う「結び切り」と取り違えることです。結び切りは「一度きりであってほしいこと」に使う結び方なので、還暦祝いにはふさわしくありません。お店で購入するときは「還暦祝い用で」と伝えれば、適した袋を選んでもらえます。
失敗パターン②:良かれと思った贈り物が「老い」を連想させた
還暦祝いでよくある失敗が、実用的だと思って選んだ贈り物が、本人にとっては複雑な気持ちになるものだった、というケースです。
たとえば、こんな場面です。父親の還暦祝いに、Bさん(娘)は「最近、新聞が読みにくそうだから」と老眼鏡を贈りました。父親は笑って受け取ってくれましたが、後で母親から「年寄り扱いされたと少し気にしていた」と聞かされ、Bさんは気まずい思いをしました。
原因は、老眼鏡や補聴器など「老い」を感じさせるものは、還暦祝いのNGとされていることを知らなかったことです。ほかにも、香典返しによく使われるお茶は「死」を連想させる、靴や下着は「踏みつける」「格下」の意味がある、文具や腕時計は「もっと勤勉に」という意味がある、として目上の方への贈り物では避けられることがあります。対策としては、本人が本当に必要としている場合は、事前に「欲しいものある?」と聞いてから贈ることです。本人のリクエストなら、NGとされるものでも喜ばれます。
| 避けたほうがよい贈り物 | 避けられる理由 |
|---|---|
| 老眼鏡・補聴器 | 「老い」を感じさせる |
| お茶 | 香典返しによく使われ「死」を連想させる |
| 靴・下着 | 「踏みつける」「格下」の意味がある |
| 文具・腕時計 | 「もっと勤勉に」という意味がある |
赤いものは「差し色」くらいがちょうどいい
還暦祝いといえば赤いちゃんちゃんこが有名ですが、今は赤を「さりげなく取り入れる」くらいがちょうどいいと考える家庭が増えています。赤は魔よけの色とされ、赤ちゃんに還って生まれ直すという再出発の意味が込められています。
ただ、今の60歳は若々しい方が多く、ちゃんちゃんこを着るのは照れくさいという声もよく聞きます。そこで、赤いバラの花束、赤ワイン、赤い小物や差し色の入ったストールなど、日常で使えるものに赤を取り入れる形が選ばれています。赤いもので全体をそろえる風習もありますが、無理に全部を赤にする必要はありません。
注意したいのは、本人の好みを置き去りにしないことです。赤が苦手な方に真っ赤な服を贈っても、たんすにしまわれたままになりがちです。記念写真のときだけちゃんちゃんこを羽織ってもらう、といった形にすれば、本人も家族も気楽に楽しめます。
60代から使える割引と運転免許の備え
還暦を迎えると、使える割引が増える一方で、運転免許の更新など新しい手続きも見えてきます。「得すること」と「備えること」を一緒に押さえておきましょう。
シニア割引は60歳で使える範囲が広がる
意外と知られていないのですが、シニア割引は65歳からではなく、実は50歳から始まっていて、年齢の節目ごとに使える割引が増えていきます。60歳は、その使える範囲がぐっと広がるタイミングです。
たとえば50歳からはJR東日本の「大人の休日倶楽部ミドル」やJR西日本の「おとなび」、55歳からはイオンの「G.G感謝デー」などが対象になります。60歳からはすかいらーくグループ、スシロー、イトーヨーカドー、ツルハドラッグ、スカイマーク、携帯電話会社各社などが使えるようになり、65歳からはANAやJALのシニア向け運賃、国立の博物館・美術館の無料優待なども加わります。毎月15日は、イオンのG.G感謝デーやツルハドラッグ、ウエルシア、スギ薬局などで割引がそろう日として知られています。
注意したいのは、割引の多くは会員登録やカードの申し込み、年齢確認書類の提示が必要なことです。条件や対象年齢は変わることがあるので、使う前に各社の公式サイトで確認してください。年齢別の割引は、下の記事で一覧にしています。

「シニア割引って、結局のところ何歳から使えるんだろう」——レジの前でそう思ったことはありませんか。映画館は60歳から、スーパーは55歳から、JRの会員サービスは…
運転免許は70歳から手続きが増える
運転免許の更新で、高齢者講習が必要になるのは70歳からです。神奈川県警察の案内では、免許証の有効期間が満了する日に70歳以上の方は、更新手続きの前に高齢者講習などを済ませておく必要があるとしています。65歳での更新時には高齢者講習の受講は必要ありません。
70歳から74歳の方は高齢者講習のみが必要で、普通自動車の免許を持つ方の場合、座学と運転適性検査に約60分、実車に約60分の合わせて2時間ほどです。75歳以上になると、警視庁の案内のとおり、高齢者講習に加えて認知機能検査を受ける必要があり、過去3年間に一定の違反行為をした方は運転技能検査も受けることになります。
認知機能検査では、16種類の絵を覚えて答える「手がかり再生」と、検査時の年月日・曜日・時間を答える「時間の見当識」の2つを行い、36点未満だと「認知症のおそれあり」と判定されます。手数料は警察施設で受ける場合で1,050円程度とされています(2026年度時点・都道府県によって異なる場合あり)。60歳の今は関係なさそうに見えても、10年先の手続きを知っておくと、運転を続けるかどうかを考える材料になります。

📝 この記事でわかること ・高齢者の免許更新が何年ごとになるか(年齢別の有効期間) ・71歳と75歳で変わる更新手続きの違い ・高齢者講習や認知機能検査の具体的…
読者タイプ別・60歳からの優先順位
60歳からの備えは、今の暮らし方によって優先順位が変わります。全部を一度にやろうとせず、自分のタイプに近いところから手をつけるのがおすすめです。
たとえば、まだ会社員として働き続ける方は、健康診断の結果の見直しと、年金を受け取り始める時期の検討を先にしておくと安心です。定年退職を控えている方は、健康保険の切り替えと、会社以外の居場所づくりを優先しましょう。車で移動することが多い地方にお住まいの方は、足腰の健康と、将来の免許返納の時期を家族と話しておくことが大事になります。
ただし、どのタイプでも共通して大切なのは、体の小さな変化を見逃さないことです。お金や制度は後から調べ直せますが、体の変化は早く気づくほど打てる手が増えます。下の比較を目安に、自分に合った順番を考えてみてください。
| 読者タイプ | 先にやっておきたいこと |
|---|---|
| 働き続ける会社員 | 健康診断の見直し/年金の受け取り時期の検討 |
| 定年退職を控えた方 | 健康保険の切り替え/会社以外の居場所づくり |
| 車での移動が多い方 | 足腰の健康づくり/免許の今後を家族と相談 |
| 還暦祝いを準備する家族 | 本人の希望を聞く/NGな贈り物を避ける |
まとめ
還暦は「終わり」ではなく、暦がひと回りして新しく始まる節目です。まずは冒頭のチェックリストを見て、印がつかなかった項目を1つだけ選び、今週中に手をつけてみてください。健康診断の結果を並べてみる、ご家族と定年後の過ごし方を話してみる——そんな小さな一歩で十分です。
※制度の金額や条件は改定されることがあります。最新情報は各公式サイトでご確認ください。

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